シロクマ文芸部 『夜店から』
夜店から漂ってくるお祭りならではの匂いに誘われて、ふらりと神社の境内に足を踏み入れる。
参道にずらりと並ぶ屋台。
これは、子供の頃に見た光景とあんまり変わらないな。
あの頃は、両親に連れられて、近くの神社のお祭りによく行った。
僕が父親に手を引かれ、妹が母親に手を引かれ。
懐かしいな。
あれから何年経ったのか。
三人に会えなくなって、僕が一人になって。
神社のお祭りにも、行かなくなってしまった。
夜店が続く。
僕が幼い頃、遊んだオモチャが売られている。
あれもこの夜店で買ったのだろうか。
いつしか壊れて、処分されてしまった。
母親の、哀れむような表情を覚えている。
「さよならしなさい」
そう言われて、鼻をすすりながらオモチャにさよならをした。
懐かしいな。
あれから何年経ったのか。
三人に会えなくなって、僕が一人になって。
どの店にも、人の気配はない。
イカ焼きが好物だった。
いつも、屋台で買って帰って、居間のテーブルで四人で千切って食べた。
あの日もイカ焼きを買って、家に帰る途中の事故だった。
車は大破して、イカ焼きは車と一緒にレッカーされた。
僕は未練がましく、走り去る車を見ていた。
懐かしい。
あれから何年経ったんだろう。
三人がいなくなって、僕が一人ぼっちになって。
祭り囃子が聞こえない。いつしか途絶えた。
りんご飴の屋台の片隅に、小さい女の子が佇んでいた。
近付くと、こちらを見て、
「お兄ちゃん」
と声をかけられる。
「どうしたの?迷子になったのかい?」
僕が聞くと、
「やっと会えたね、お兄ちゃん」
見覚えのある笑顔。
だけど、僕の妹はもういない。
あの事故で、会えなくなってしまった。
「大きな地震があってね。たくさんの人達がこっちに来るよ」
彼女が言う。
「お父さんとお母さんは……どうかな?」
いつの間にか、両手にりんご飴を持っていて、ひとつを僕に差し出した。
「りんご飴、あんまり好きじゃなかったけど」
遠くから、祭り囃子が聞こえてきた。
そして、人の喧騒。
薄暗かった夜店に明かりが灯る。
焼きそばを焼く音。道端に並んだ風車が回る。
この光景。懐かしい。
あれから何年経ったんだろう。
三人に会えるなら、僕はもう一人じゃない。
父親に手を引かれて、あの神社の境内へ。
こちらの企画に参加させていただきました。
よろしくお願いいたします。
