『激安ロースかつ重のつぶやき』《掌編小説》
なぜ、日本からGAFAのような企業が現れなかったのか?
そんな趣旨の記事が、色んなビジネス雑誌で取り上げられてきたよね?
そりゃ当たり前だろーが? バブル経済崩壊から三十余年、この国の企業経営者達は、GAFAのようなチャレンジャーの開拓者精神を、徹底的に忌み嫌って潰してきたからだよ。
俺はこのスーパーの弁当・総菜コーナーの人気商品、税込み299円の「激安ロースかつ重」だ。自分で言うのも何なんだけど、リピーターも多いはずだよ。
毎度(!)、俺を買ってくれるこの男も、お蕎麦屋さんのかつ丼に何ら劣ることのない味だと驚いている。俺は買ってくれた人の心が読めるんだ。
そして、ここまでコスパのいい俺たちを見るにつけ、逆に不安も感じているようだね。ここまで美味い俺たちを300円で買わすスーパーの人件費は? どんな収益構造で従業員の賃金はどうなっているのか? 従業員の賃金をギリギリに下げながらの低価格だったとしたら、世の中的にいかがなもんか? という懸念のようだ。
尤もこの男は、そんなマクロ的な懸念と、一消費者としてのミクロ的な欲求を、脳の別の部分で考えてるようだが。
この男の心を覗いてみると、成程、理解だけはできる。世間一般の考え方とは言えまいが。1980年代後半、バブル景気に浮かれすぎた「調子に乗り過ぎ」と、バブル崩壊後の「虚脱感と委縮」。こういう振れ幅が極端すぎるのは、日本人の負の側面の一つ。
有り余るお金を背景にした余裕から、遊び心が生まれて、イノベーションを目指すトライアルを試みた企業の多かったバブル時代。遊び心はいいんだけど、その反動、つまり、バブル崩壊後の企業と産業界の萎縮ぶりも、あまりに異常過ぎた。
それから35年余り。経済のデフレ化は限界まで進み、自らの深層心理に恐怖というトラウマを抱え込んだ産業界と多くの企業は、規制緩和の外圧もあり、従業員の非正規化を推し進め、賃金を世界的に惨めな低水準に落としつつ、内部留保を蓄え続け、国民生活を疲弊に疲弊させ続けてきた。
こいつらが溜め込んだ内部留保を唯一、ポジティブに評価できるのは、2020年に始まったコロナ禍で企業社会が壊滅しなかったことぐらいだ。尤もそれだってバブル崩壊と前世紀末の金融危機以降のトラウマ、つまり恐怖心にかられた防衛策だったわけだが。
ただのコスパ追求型の商品って、この俺たちが〝行きつくところ〟なんじゃないか? もう十分だろうが。これからは、政府や学者たちが発したところで、空虚に空回りするしなかった〝高付加価値の創出〟とやらに取り組んでみろや……。
2025年に西友を子会社化したトライアルホールディングスって、元はリサイクル業態だったらしいけど、今でいうところのデータドリブンマーケティングを実践してきた企業だろ? AIを使うことにも長けてるんじゃやないか?
あと必要なことはね、遊び心じゃないの? こればかりはAIじゃなく人間じゃないとね、と、俺じゃなく、この男は思ってるよ。
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