人見知りな私が、喫茶店でだけは呼吸が深くなる理由
淹れたてのコーヒーの香りが鼻をくすぐると、張り詰めていた心が、ふっとほどける。
カップから立ち上がる湯気と一緒に、豆の香ばしさと、奥にひそむわずかな甘みが届く。
喫茶店には、ぼんやりしていても許される空気がある。
ただ座っているだけでもいいし、スマホを眺めていてもいい。
「何もしなくていい」と思えることが、人見知りの私にはありがたい。
その空気に紛れて、私はそっと人を眺める。
仕事に向かう人、楽しそうに話し続ける二人組、文庫本に目を落とす老紳士。
同じ場所にいながら、誰も互いに踏み込まない。
すぐ隣に会話があっても、別の誰かは静かに自分の世界にいる。
その不思議な距離感に、安心する。
喫茶店は、それぞれの時間が、ちょうどいい距離で重なっている場所だ。
手のひらに伝わるカップの温もりを感じながら、コーヒーを口に運ぶ。
それだけで、ささくれた気持ちが、少しずつ整っていく。
人の気配はあるのに、誰も踏み込んでこない。
その距離が、今の私にはちょうどいい。
カップが空になる頃、
私は少しだけ軽くなった足取りで、また外へ戻っていく。
この場所で整えた静けさを、こぼさないようにしながら。
✦静かな部屋にジャズが流れ、コーヒーの香りに包まれる。そんな穏やかな一人時間を綴ったエッセイです。
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