見出し画像

30代で、もう動脈硬化? 「まだ若い」の先で血管に起きていたこと

こんにちは、アザラシです!

先日とある研究にて、30代でも男性の約35%、女性の約21%に、動脈硬化の病変が見つかった、という衝撃的な数字が報告されました(注1)

これは8月29日に医学誌NEJMに発表された研究の結果です。デンマークとスペインで、動脈硬化による心血管疾患が知られていない人たちの血管を調べて出てきた数字です(注1)。

男性ならおよそ3人に1人、女性なら5人に1人(注1)。「動脈硬化って、もっと年をとってからの話では?」と思っている人も多かったのではないでしょうか。

もちろん、これは心筋梗塞を起こす人の割合ではありません。画像に写る血管の変化が、すでにある人の割合です。

それでも、「まだ若いし、そのうち気をつければいい」という気持ちには、ちょっと待ったがかかります。では、今から何かを変えれば間に合うのか。検査や薬はどう考えればよいのか。関連する研究をたどると、怖い数字の先に、予防の話が見えてきます。


この記事を読めばわかること

  • 若い人の血管に、何が見つかったのか

  • 今から生活を変えることに、どんな意味があるのか

  • この発見で、私たちの行動や医療はどう変わるのか


「何も症状がない」と「何も起きていない」は、別だった

動脈硬化という名前から、古くなったホースが硬くなるような様子を想像するかもしれません。今回、研究者が探したのは、血管の壁に脂質などがたまってできる「プラーク」という病変です(注8)。

REACTと名づけられたこの研究には、18〜70歳の16,808人が参加しました。首と脚の付け根の血管を超音波で、心臓に血液を送る血管をCTで調べています(注1)。

心筋梗塞につながる動脈硬化を調べるのに、首や脚まで見る。最初は少し意外ですが、若い人では、この調べ方に意味がありました。

若い年齢層では、首や脚の血管だけに病変が見つかる人が多く、年齢層が上がるほど、病変は複数の場所で見つかるようになっていました(注1)。「心臓が元気なら大丈夫」という感覚では見えない部分があります。

さらに、30代より若い18〜29歳でも、男性の8.7%、女性の6.7%に病変がありました(注1)。社会に出たばかりの年齢でも、血管の変化は始まっている人がいるわけです。

実は、若い頃から動脈硬化が始まること自体は、以前から知られていました。事故などで亡くなった子どもや若い成人の血管を調べた研究でも、血圧や脂質、喫煙などの危険因子が重なるほど、病変が広がっていました(注2)。

今回、その話に、生きている幅広い年齢の人を画像で調べたデータが加わりました。若い人のどの血管に、どのくらい病変があるのか。その姿が、数字として具体的になったのです。

ただ、この欧州の数字を、そのまま日本の若者の割合にはできません。同じ人を何十年も追った結果でもないので、「あなたもこの速さで進む」という予言として読む必要はありません(注1)。

私が気になったのは、もっと身近なことです。健診でコレステロールが少し高くても、体調が変わらなければ、なかなか切迫感は持てません。でも、体調に変化がない時間にも、血管の状態は変わりうる。予防の難しさは、まさにここにありそうです。

血管にとっては、「今年の数値」だけではなかった

健診の結果を見るとき、まず気になるのは今回の数値です。去年より上がったか、下がったか。基準範囲に入ったか。

ところが、血管を考えるうえでは、コレステロールの「高さ」に加えて、「その高さがどれくらい続いたか」も関わってきます。

米国の約1万8千人をまとめた研究では、若年期から中年期までのLDL、いわゆる悪玉コレステロールの高さを、続いた期間も含めて評価しました。その値が高いほど、その後に冠動脈疾患が起こりやすい関係がありました。中年期のLDL値などをそろえて比較しても、この関係は残りました(注3)。

つまり、同じ「今の数値」でも、そこに至るまでの経過には情報がある。健診結果を今年の1枚だけで見るより、過去のものと並べたくなる研究です。

それなら、早くから食事を変えてみたらどうなるでしょう。

フィンランドには、その問いをずいぶん長い時間をかけて調べたSTRIPという試験があります。食事指導を始めたのは、なんと生後7か月。そこから20歳まで続けました(注4)。

離乳食の頃に始めて、成人するまで。食事の研究というより、ひとりの子どもが育つ時間をまるごと見守るような長さです。

取り組みの中心は、脂肪の「質」を変えることでした。肉の脂身やバターなどに多い飽和脂肪を取りすぎず、魚や植物油などに含まれる不飽和脂肪へ置き換える。成長に必要な栄養を取りながら、日々の選び方を整えていきました(注4、注8)。

そして、指導を終えて6年後。26歳になっても、指導を受けた群では、脂肪の取り方や一部のコレステロール・血糖の指標に良好な結果が残っていました(注4)。

この試験で確認されたのは危険因子の改善で、心筋梗塞が減ったという結果ではありません。それでも、食事への働きかけが、指導をやめた後の成人期までつながった点は、希望のある話です。

「そんなに早くから? もうとっくに過ぎてしまった」と思った人には、その後に数値が改善した人を追った研究もあります。

小児期から成人期まで追跡した研究では、動脈硬化に関わるコレステロールの指標が高いままだった人ほど、心血管疾患が多くなっていました。一方、成人期までに基準範囲へ下がった人では、両時期とも基準範囲だった人と比べ、明確なリスク増加は確認されませんでした(注5)。

過去の影響がすべて消えるとまでは言えません。別の研究では、脂質異常が解消した人にも、血管のプラークとの関連が残っていました(注6)。けれど、「若い頃に高かったから、もう手遅れ」と決めつけるのも早そうです。

過去の健診結果を見返して、ため息をつく必要はありません。次に考えたいのは、この先も同じ状態を続けるかどうかです。

では、明日の生活と、これからの医療はどう変わる?

新しい研究を読むと、新しい対策を知りたくなります。ところが、今できることの中心は、禁煙、食事、身体活動、体重の管理。日本動脈硬化学会が勧める、よく知られた予防の基本です(注8)。

ただ、同じ「食事に気をつけましょう」でも、若い血管にすでに変化があると知ると、取り組む時期の意味が変わります。「いつか必要になったら」の、その「いつか」を考え直す理由になるからです。

たとえば、夕食を選ぶとき。肉の脂身が多い料理が続いていたら、魚や大豆製品を選ぶ日をつくる。野菜や食物繊維を増やし、塩分の取りすぎを見直す。移動で歩く機会を増やし、座りっぱなしの時間を減らす(注8)。

毎食を完璧に組み立てようとすると、買い物だけで疲れてしまいそうです。まずは、自分の生活で何度も繰り返す場面をひとつ選ぶ。昼食、通勤、夕食後の過ごし方。続けられる変更を置くなら、そういう場所がよさそうです。

もうひとつ、手元にあるなら開いてみたいのが、過去の健診結果です。LDLや血圧の高値が続いていないか。再検査や受診の案内を、そのままにしていないか。今年の数字だけでは見えなかった経過があるかもしれません(注3、注8)。

また、コレステロールの高さを、食べすぎや努力不足だけで説明することはできません。遺伝的な体質でLDLが高くなる「家族性高コレステロール血症」、略してFHもあります。若い頃からの高値や、家族が若くして心筋梗塞を起こしたことは、診察で伝えたい情報です(注9)。

FHの子どもがコレステロールを下げる薬を始め、その後を20年間追った研究では、同じ病気を持つ親の世代より、若年成人期の心血管疾患が少ない結果でした(注7)。高いリスクを早く見つけることには、こうした具体的な意味があります。薬を使うかは、それぞれのリスクに応じて考える話です。

では、若い人も全員、血管の画像検査を受ければよいのでしょうか。

ここは、今回の研究が次に開いた問いです。REACTで明らかになったのは、早い時期から病変を見つけられること。その画像を使って予防すれば、将来の心筋梗塞や脳卒中を減らせるかは、これからの検証です(注1、注10)。

研究チームは、その答えを調べる次の試験を計画しています(注10)。血圧やコレステロールから将来の危険を見積もることに、血管で実際に起きている変化を見ることが加わる。その組み合わせが役立つと確かめられれば、誰に、いつから、どこまで予防するかが、さらに具体的になるかもしれません。

この段階で全員がCTを予約する結論にはなりません。でも、「まだ若いから」という一言だけで、健診の異常を片づけるのはもったいないと思います。

30代で、すでに血管に変化がある。確かに、少し怖い話です。ただ、症状が出る前に取り組める時間も、そこにはあります。

動脈硬化の話を、自分にはまだ関係のない話として閉じるか。次の食事や、しまってある健診結果につなげるか。今回の研究を読んで、私は後者を選びたくなりました。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


【注釈】

(注1)Bundgaard H, et al. Prevalence of Silent Atherosclerosis across Adult Life. NEJM, 2026年8月29日公表。18〜70歳16,808人、女性51.4%。30代の割合は、年齢・性別ごとの有病割合を示す原著図の公開転載(パネルA・B)を参照し、男性約35%、女性約21%と概数で記載。18〜29歳の男性8.7%、女性6.7%は原著抄録のResultsで確認。頸動脈・大腿動脈の3D超音波と冠動脈CT血管造影による登録時評価で、調べた血管のいずれかに病変がある割合である。冠動脈だけの割合や、心筋梗塞を起こす確率ではない。「既知の動脈硬化性心血管疾患がない」は、危険因子も自覚症状も一切ないという条件ではない。年齢層間の比較であり、個人の進行速度は測定していない。欧州の参加者の結果を日本の一般集団にそのまま当てはめることはできない。原著原著図の公開転載画像発表日を記載した実施機関の発表

(注2)Berenson GS, et al. Association between Multiple Cardiovascular Risk Factors and Atherosclerosis in Children and Young Adults. NEJM, 1998. Methods・Results・Conclusions。2〜39歳204例の剖検のうち生前の危険因子データを持つ93例が中心。複数の危険因子と病変の広がりとの関連を報告。死亡者の剖検であり、一般集団の有病割合ではない。原著

(注3)Zhang Y, et al. Association Between Cumulative Low-Density Lipoprotein Cholesterol Exposure During Young Adulthood and Middle Age and Risk of Cardiovascular Events. JAMA Cardiology, 2021. Methods・Results・Figure 1。米国4コホートの18,288人。中年期のLDL値等で調整後、累積LDL曝露の最高四分位対最低四分位の冠動脈疾患HRは1.57(95%CI 1.10〜2.23、傾向検定p=0.01)。過去の脂質軌跡には推定値を含む。薬物療法の開始年齢を無作為に比較した試験ではない。原著

(注4)Pahkala K, et al. Effects of 20-year infancy-onset dietary counselling on cardiometabolic risk factors in the Special Turku Coronary Risk Factor Intervention Project (STRIP): 6-year post-intervention follow-up. Lancet Child Adolesc Health, 2020. Methods・Findings。1,116人を無作為化し、生後7か月〜20歳に食事指導。26歳時に551人がデータを提供し507人を解析。介入群では飽和脂肪の摂取割合がやや低く、研究で定めたLDL値等の目標を達成する人が多かった。将来の心筋梗塞・死亡の減少を示す評価ではなく、追跡脱落がある。原著抄録

(注5)Wu F, et al. Non–High-Density Lipoprotein Cholesterol Levels From Childhood to Adulthood and Cardiovascular Disease Events. JAMA, 2024. Results・Figure 3。6コホート5,121人、心血管イベント147件。両時期とも基準範囲だった群に対し、異常が解消した群のHRは1.13(95%CI 0.50〜2.56)、持続した群は5.17(2.80〜9.56)。解消群のイベントは13件で、同等性を検証した試験ではない。non-HDLは総コレステロールからHDLを除いた指標で、LDLなどを含む。生活改善や薬の効果を直接推定した研究ではない。原著

(注6)Koskinen JS, et al. Childhood Dyslipidemia and Carotid Atherosclerotic Plaque in Adulthood: The Cardiovascular Risk in Young Finns Study. JAHA, 2023. Abstract Results。2,643人の頸動脈プラークを評価。脂質異常が成人期に解消した群のプラークRRは3.00(95%CI 1.42〜6.34)。注5と評価項目・脂質異常の定義等が異なり、同じ人で臨床リスクが改善して画像病変だけが残ったと実証したものではない。原著抄録

(注7)Luirink IK, et al. 20-Year Follow-up of Statins in Children with Familial Hypercholesterolemia. NEJM, 2019. Abstract Methods・Results。元の2年間のプラバスタチンRCTに参加したFH患者214人を追跡。39歳時点の心血管イベント累積発症割合は患者1%、FHを持つ親26%。長期の臨床イベント比較は世代間比較であり、20年間の無作為比較ではない。原著

(注8)日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」の生活習慣改善、リスク評価、画像指標に関する記述、および「The Japan Diet」。プラーク、動脈壁の硬さ、頸動脈内膜中膜厚、冠動脈石灰化は異なる指標。本文の食事・身体活動は一般成人向けの実践例であり、特定の行動による若年期のプラーク退縮率を保証しない。薬物療法はリスクに応じて判断する。ガイドライン公開英語版学会の生活改善資料

(注9)日本動脈硬化学会「家族性高コレステロール血症(FH)とは?」。若年期からのLDL高値、遺伝性、血縁者の高コレステロールや冠動脈疾患を説明している。本文は受診時に共有する情報を示すもので、これだけでFHと診断するものではない。学会公式解説

(注10)CNICのREACT研究発表。REACT-PROTECTは、画像に基づく予防の臨床的利益を検証する次段階として説明されており、資金調達を条件に2027〜2032年に計画。完了済み試験の結果ではない。NCT06692127の登録は第1相REACT-DETECTである。実施機関の発表第1相の試験登録


【参考文献】

  1. Bundgaard H, García-Lunar I, Kofoed KF, et al. Prevalence of Silent Atherosclerosis across Adult Life. N Engl J Med. 2026. DOI: 10.1056/NEJMoa2609059

  2. Berenson GS, Srinivasan SR, Bao W, et al. Association between Multiple Cardiovascular Risk Factors and Atherosclerosis in Children and Young Adults. N Engl J Med. 1998;338:1650–1656. DOI: 10.1056/NEJM199806043382302

  3. Zhang Y, Pletcher MJ, Vittinghoff E, et al. Association Between Cumulative Low-Density Lipoprotein Cholesterol Exposure During Young Adulthood and Middle Age and Risk of Cardiovascular Events. JAMA Cardiol. 2021;6:1406–1413. DOI: 10.1001/jamacardio.2021.3508

  4. Pahkala K, Laitinen TT, Niinikoski H, et al. Effects of 20-year infancy-onset dietary counselling on cardiometabolic risk factors in the Special Turku Coronary Risk Factor Intervention Project (STRIP): 6-year post-intervention follow-up. Lancet Child Adolesc Health. 2020;4:359–369. DOI: 10.1016/S2352-4642(20)30059-6

  5. Wu F, Jacobs DR Jr, Daniels SR, et al. Non–High-Density Lipoprotein Cholesterol Levels From Childhood to Adulthood and Cardiovascular Disease Events. JAMA. 2024;331:1834–1844. DOI: 10.1001/jama.2024.4819

  6. Koskinen JS, Kytö V, Juonala M, et al. Childhood Dyslipidemia and Carotid Atherosclerotic Plaque in Adulthood: The Cardiovascular Risk in Young Finns Study. J Am Heart Assoc. 2023;12:e027586. DOI: 10.1161/JAHA.122.027586

  7. Luirink IK, Wiegman A, Kusters DM, et al. 20-Year Follow-up of Statins in Children with Familial Hypercholesterolemia. N Engl J Med. 2019;381:1547–1556. DOI: 10.1056/NEJMoa1816454

  8. 日本動脈硬化学会編. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 2022. 公式案内

  9. 日本動脈硬化学会. The Japan Diet;家族性高コレステロール血症(FH)とは? 生活改善資料FH解説

  10. CNIC. REACT研究の発表とREACT-PROTECTの計画. 2026. 機関発表

  11. ClinicalTrials.gov. DETECTion of the Prevalence of Silent Atherosclerosis Across Adult Life. NCT06692127

いいなと思ったら応援しよう!