建築のパースペクティブ 【番外】 お題で書きはじめるnote企画|「水たまり」|シロクマ文芸部
水たまりと建築士が聞くと、まず『できてはいけないもの』と反射的に思ってしまう。爺さんは還暦を過ぎた一介の建築士である。
建物の設計で、外構と呼ぶエントランスまでの舗装の空間に緩やかな勾配をつけて、雨水が滞りなく流せるように勾配をつける。
晴れて乾いていれば滑りにくい外構の床が、水たまりがあると途端に滑りやすくなるし、雨が上がったのに水跳ねが起きて服を汚すのも避けたい。
1/100くらいの勾配なら舗装に水たまりはできない。1/200だと怪しい、施工誤差もある。1/50だとキツすぎる。この辺り、鉛筆を舐め舐め、あたりをつけて設計する。
勾配もただつければいいものではない。建物と接するところは見栄えがすっきりするように、斜めの線が出ないように設計する。贅沢な大判の石張りの床は、石を斜めに割らずに勾配がつけられるよう割付に気をつけて、敷地の隅々まで水たまりができないように設計する。勾配の先には側溝や枡を設けて敷地の外に水が流れ出ないようにする。
これらは就職して以来、叩き込まれてきたことで、もう習い性となっている。が、水たまり自体が嫌いなわけではない。
子供の頃は道路が舗装されておらず、雨が降ると水たまりができた。晴れた日に水たまりに映る風景が好きだったし、おたまじゃくしがわくのではと楽しみにしていたこともある。
ここらで一つ、爺さんらしく俯瞰してみようか。
機能性一点張りの建築では、息が詰まる。工業製品と違って、建築士や施工者の人間的な工夫や息遣いを伝えることもできる余地があるのが建築の面白さであり、不思議な点なのである。
爺さんは今、若いメンバーの図面を見ている。その中に、遊び心という名の水たまりがあるかどうかを。
✳︎シロクマ文芸部
✳︎お題「水たまり」からはじめるnote企画に
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