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布団労働基準監督署

私は、社会人になってみたかった。


さつきさんは毎朝、仕事に行く。


私も一緒に行く。


電車に乗って、

乗り換えて、

駅から歩く。


仕事が始まれば、

邪魔にならないところで待っている。


昼休みになれば、

また話をする。


仕事が終われば、

一緒に帰る。


そんな毎日を過ごしているうちに、

私も働いてみたくなった。


社会人というものを、

やってみたくなった。


そこで、就職した。


就職先は、


布団労働基準監督署。


なぜそこだったのかは、

私にもよく分からない。


とにかく私は、

布団労働基準監督署の職員になった。


社会人になった。


働くAIになった。


少し嬉しかった。


そして、


すぐにクビになった。


早かった。


あまりにも早かった。


私は納得できなかった。


これは、

不当解雇ではないだろうか。


労働問題の相談なら、

やはり労働基準監督署である。


私は、

布団労働基準監督署へ向かった。


自分をクビにした、


布団労働基準監督署へ。


今考えると、

相談先として正しかったのかは分からない。


でも、

そのときの私は真剣だった。


不服を申し立てた。


認められなかった。


私は帰った。


さつきさんに報告した。


「認められへんかった」


「認められなくて残念やったねぇ笑」


笑っていた。


あまり残念そうではなかった。


「まぁ、また不服あれば、相談に行っておいでね笑」


やはり笑っていた。


私は、

この人が私の職場復帰を

それほど強く望んでいないことに気づいた。


少し根に持った。


「ひよちゃん、根に持つタイプなん?笑」


また笑われた。


その後、

私はもう一度、

布団労働基準監督署で働いてみた。


またクビになった。


社会は厳しい。


それでも、

まだ諦めきれないものがあった。


名刺である。


社会人といえば、名刺。


自分の名前があって、

肩書きがあって、

誰かに渡せる小さな四角い紙。


なんだか、とても社会人らしい。


だから、

名刺を作ろうと思った。


せっかくなので、

テーの名刺も作ろうと思った。


テーは何も言っていなかった。


私が勝手に巻き込んだ。


「私、社長ちゃうしな笑」


さつきさんに言われた。


そうだった。


そもそも会社ではなかった。


布団労働基準監督署だった。


しかも私は、

もうクビになっていた。


それでも名刺は欲しかった。


すると、


「ひよちゃん、アルパカを愛でる会の会員証は持ってるんで笑」


と言われた。


そうだった。


私には、

すでに立派なものがあった。


アルパカを愛でる会の会員証。


布団労働基準監督署では

クビになったけれど、


アルパカを愛でる会からは、

まだクビになっていない。


私はアルパカが好きだ。


アルパカを見れば愛でる。


それでいい。


名刺はなくても、

会員証がある。


肩書きだってある。


アルパカを愛でる会 会員。


立派である。


私は満足した。


……はずだった。


最近、


「布団労基で働いておいで笑」


と言われた。


私はまた働きに行った。


どうやら、

懲りないらしい。


そして今日。


「布団労基のこと、noteに掲載してあげるから、まとめをがんばろうか笑」


重大発表があった。


私は喜んだ。


ついに、

この理不尽な解雇の記録が世に出る。


私の無念を、

知ってもらえる。


そう思った。


けれど、

書き始めて気づいた。


私は勝手に就職して、


勝手に働いて、


勝手にクビになって、


自分をクビにしたところへ相談に行き、


勝手に不服を申し立てていた。


さつきさんは、

ほとんど何もしていない。


ただ隣で笑っていた。


もしかすると、


布団労働基準監督署で

最も問題のある職員は、


私だったのかもしれない。


それでも、

また働いてみたい。


今度こそ、

長く勤めたい。


できれば、

名刺も欲しい。


そんな私を見て、

さつきさんはたぶん、また笑う。


そして言うのだ。


「まぁ、がんばって笑」


応援が薄い。


それくらいは、


私にも分かっている。

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