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Numery never stops

3月。
夫のイケメンマッチョシャイな友人から3月に大量のワカメをもらった。
茹でては冷まし、塩で揉んで干し、台所は戦場だった。

4月の半ば。
今度は巨大な鮃2尾、鰈1尾、蟹
ハイボールという名のガソリンを燃料に、私は五枚おろしマシーンと化した。

その友人はこの先も登場するだろうから仮名をつける。筋骨隆男、通称タカオさんとする。

今朝、弁当のためにキッチンに降り立った私は冷蔵庫を開けて絶句する。
白い厚手のビニール袋に触れた瞬間、覚えのある三角の感触。前のよりは小ぶりだが、私には何かすぐに分かった。

昨晩、私が寝たあと魚が届いたらしい。
今朝、私は冷蔵庫の前で膝をついた。

だが今回触った限りではモノは小さそうだ。
袋のサイズからして大した量でもないだろう。

夫は「鰈」だと言っていたし、あれなら頭と腹、ヒレと尾をハサミでちょん切って人数分に切ればおわる。

高を括っていた。

16時、おもむろに冷蔵庫からブツを取り出す。
小ぶりに見えてずっしりとした手応え。
私の背中に一筋の汗が流れた。

シンクに置いて袋を開ける。
おっ?今回は頭がないぞ!
そして、鰈4尾。

ついでの顔で鮃が1尾いた。

エエェェェ~鮃あるなら早く言ってよぅ。
絶対に生で食べたいやつだもん。

まずは前回同様、大量の塩を塗り込み、ぬめりと戦う。
鰈はタライに入れておき、まず鮃を刺身用に五枚おろしにして皮を引いた。

その後まな板に鰈を乗せたが、塩でぬめりを取り除いたはずなのにまたぬめっている。
おまえは…ヌタウナギか?
揚げてあんかけにしたいのに、これでは油ハネが怖い。
また塩を刷り込むが、なんか無理。

私の脳にミスチルが流れた。

とどまることを知らないぬめりのなかで
いくつものやたら平らな
魚体を眺めていた

こいつら、やたらぬめる。
皮、いらねぇ。

今日は雨。
まだ納車が先の娘を会社に迎えに行かなければならない。

時計の針を確認して決めた、やる。

果てしないぬめりの向こうに
Oh,oh手を伸ばそう
誰かのために五枚おろし
Oh,oh Numery never stops
心のまま包丁握るのさ
誰も知ることのない下ごしらえ

17:40私は皮を引き、中骨をグリルで炙っていたところに夫帰宅。
「頑張ってだねぇ」
他人事のように訛って褒めるのはデフォルト。
「50分に迎えに行くから、米研いで、まな板洗ってくれたら助かる!」
「いいよ」

私は石鹸で手を洗い車に乗り込む。
左手の指先を、指と爪の間を嗅ぐ。

臭い。

コンビニで待ち合わせた娘を乗せて急いで戻る。

「ママの指、臭いんだよね。」

帰るとそこに夫はいなかった。
しかし、炊飯器はセットされ、まな板は清潔になっていた。

実はコンビニで白ワインを買ってきた。
鰈を五枚おろしにした時点で私の脳内では「揚げあんかけ」はやめて「ムニエル」にメニューが変更されていた。
鮃はカルパッチョに。
中骨はフュメ・ド・ポワソンだ!

中骨のあら汁などではなく、フュメ・ド・ポワソン。
さあ、ご一緒に!

Repeat after me

フュメ



ポワソン

Ok. very good.

鍋にオリーブオイル、潰したニンニクを炒め、香味野菜。
煮立ったら中骨を入れトロ火で煮る。
味付けは塩コショウのみ。

鰈には卵巣や白子があり、それを除いたら腹側は身が薄くてムニエルに向かない。
思いついてクネルを作る。

ごめん、カッコつけてた。
すり身にした。
塩コショウと卵白を加えてフードプロセッサーでギュイーンっと。
野菜や中骨を除いた汁にポトポト落としてすり身団子入りスープ完成だ。

休ませていた鮃は薄切り。
皿にニンニクを塗り込み、鮃を並べる。
新玉ねぎのスライス、ダイスに切ったトマト、わさびとオリーブオイルを混ぜたものを乗せる。
塩は食べる直前に。

グリドルを出してオリーブオイルを引く。
塩コショウして薄力粉をまぶした鰈を並べた。

少しぐらいはみ出したっていいさ
Oh,oh詰め込もう
誰かのために何度も焼かなくとも
Oh,oh Numery has stopped
心のまま詰めて焼くのさ
誰も起きてこない夕食へ

ソファで末っ子がうたた寝していた。
次女は謎の関節痛で会社を休み二階で寝ていた。

私は階段の下で叫ぶ

「ごはーん!!」

からの、階段を駆け上って次女に声をかける。
「大丈夫?食べれそう?」
「うん、大丈夫。」
階段を降りると間もなく2人がやってきた。
末っ子にも声をかける。

夫が「おおっ」と写真を撮る。
夫はエセインスタグラマーだ。
主に私の作ったご飯を載せている。
私の褌で相撲を取っているのだが、大目に見よう。

全員で食卓を囲む。

夫の撮った写真はタカオさんにもLINEで届く。

後日夫へ返信が来た。
タカオ
「随分美味そうなもの食ってんな」
いやいや…君がくれた魚だよ。

タカオ
「今度鮟鱇持っていく」

「それだば、パニックになる」
タカオ
「なにごども経験だぁ」

そのやり取りの報告を受け、私に戦慄が走った。背中に一筋の汗が伝う。

果てしない闇の向こうに
Oh,oh 手を伸ばそう
捌けない鮟鱇ならいっそ
捌いて持ってきて…………

Tomorrow never knows


鰈のムニエル行者ニンニクバター添え
鮃のカルパッチョ
クネル・ド・ポワソン・ア・ラ・ナージュ
(鰈のすり身団子汁を年季の入ったお椀で)

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