氷点下から始まった一年。母さんキャンパーの2025年
極寒の雪中キャンプから始まり、強風や雨の撤収に何度も遭わされてもなお、季節を追いかけた一年だった。
【1月・2月】雫石市と北上市
1月10日、秋田の吹雪く道路を通り抜け、岩手県・ヴィラ館々倶楽部に降り立った私は、いきなり-13.5℃の洗礼を受けた。放射冷却である。
最も驚いたのは「過冷却」という現象だった。氷点下なのに凍らずにいた水が、器に注ごうとした瞬間に、まるで手品のようにシャリシャリとしたジェラート状に形を変えていく。
起き抜けの水をひと口が、驚きの一口。
それを温めて飲み干した。勿論CB缶もドロップダウン。懐でガス缶を温めた。
私のキャンプは、こうして極寒の衝撃と共に幕を開けたのだ。
抜けるような青空と澄んだ空気、岩手山は赤く輝いていた。あの時の景色は、今も忘れられない。

続く2月7日。北上市にある「the campus」を訪れた。
この日は、夜中にどっかりと大雪が降り積もった。5m先の視界も危ぶまれる横手を抜けて、北上市に入ると除雪が追いついておらず時折タイヤを取られる。
荒天を越えて現地に着くと、そこにはサラッサラの新雪が膝の高さまで積み上がっていた。
まずは大雪かきからのスタートだ。1時間以上かけてそのモリモリの雪を掘り起こし、ようやく自分の居場所を作る。
この日は“外で過ごすこと”にこだわった。
小さなタープを張り、掘り出した雪を積み上げて「雪のリフレクター(反射板)」を作る。焚き火の熱が雪に跳ね返り、自分だけの秘密基地のような暖かさが生まれる。
その炎にかけて煤ける鍋で食べる、しゃぶしゃぶ。
雪かきで汗冷えした体に、出汁の温かさが染み渡る。雪という一見邪魔者を楽しみに変える、雪中キャンプの醍醐味を存分に味わった一日だった。

【3月・4月】南三陸町と気仙沼市
3月23日、私は春を先取りするために三陸へ向かった。
ここ数年の3月は、秋田よりも早く春が訪れる三陸の神割崎と決めている。
この日は三女との母娘キャンプ。1月や2月の自分と向き合うキャンプとは違い、私は完全に「ホスト」に徹する。
道中の「さんさん商店街」でぷりぷりの生牡蠣に舌鼓を打ち、キャンプ場では娘のリクエストに応えて腕を振るう。
持っていくのは、私が持っている中で最大面積、かつ重量級のテントだ。極厚のマットにブランケットを広げれば、そこはもはやキャンプではなく「移動式のホテル」。ラグジュアリーな旅行のような時間を過ごす。
何より驚くのは、その陽光。まだ冬の名残がある秋田では感じられない、突き刺さるような強い紫外線。
その光を皮膚に感じたとき、「ああ、本当に春が来たんだ」と実感する。

4月27日。関東から帰省した長女と向かったのは、初めて訪れる気仙沼大島。
しかし、島は少々手荒な歓迎で私たちを迎えた。
初日は、前髪が常にオールバックになるほどの強風。外での調理は到底叶わず、豪華なキャンプ飯の予定は一転。カップスープとパン、ポテトチップスをつまみにビールを流し込む。そんな質素なディナーも、娘と笑い合えばいい思い出に変わる。
龍舞崎までの散策も、常に暴風に背中を押され、煽られるような道中だった。
試練はそれだけで終わらない。三日目の朝、テントを叩く激しい雨音で目が覚めた。
まさかの豪雨。起き上がると足元に敷いていたラグにジュワッと水が染みていた。自然の勢いに抗うことはせず、朝の5時半には撤収を決断。
そこからが本当の戦いだった。降りしきる雨の中、濡れながらの荷物の積み込み。ようやく車を出せたのは7時半前のこと。
本島との橋を越えたところにあるセブンイレブンで、ホットコーヒーを持った時の安堵感と言ったらなかった。
初めての大島は、荒々しくも美しかった。そして初めての豪雨撤収。
「これもまた、経験のうち」。そんなふうに変換できるようになったのも、大島の風と雨を越えられたからだと思う。

松の傾きがこの地が風の強いことを物語っている
【5月・6月】秋田市と尾花沢市、大崎市
5月16日、秋田市内の県立中央公園キャンプ場へ。
実は車の買い替えが決まっており、納車まで今の愛車を安全に守るため、あえて近場を選んだ。
その「守り」の姿勢とは裏腹に、キャンプスタイルは攻めに攻めた。
ソロキャンプだというのに、シェルターテントの中にカンガルーテントを入れ、さらにタープまで張るというラグジュアリーっぷり。
この時期、旬で手頃な鯛を家で下ごしらえし、昆布締めにして軽くスモーク。
それをカルパッチョに仕立て、新緑の中で贅を極めた。

だが、山の神様はまたしても私に小さなミッションを用意していた…。
翌日は、まさかの雨。
昨夜の優雅さはどこへやら。雨脚が強くなる前にと、朝は熱いコーヒーに水をドバドバと注いで無理やり冷まし、一気にがぶ飲み。
そこからはマッハで撤収作業。
結局、ラグジュアリーでいられたのは初日だけ。2025年の私は、どうやら雨に愛されすぎているらしい。
怒涛の雨撤収を繰り返した5月を過ぎ、6月からは新たなスタイルに挑戦した。
6月6日、山形県・徳良湖(とくらこ)オートキャンプ場。
この日のテーマは、初の「車中泊」。100均の格安アイテムを駆使した装備で夜を明かしてみたのだが、これが予想以上に快適だった。
これまで重いテントを担ぎ、豪雨や浸水と戦ってきた私にとって、ドア一枚で外気と隔絶される安心感は革命的。
「あ、これハマるわ」
私のキャンプスタイルに新しい選択肢が加わった瞬間だった。

しかし、平穏な日々は長くは続かない。
5月に発覚した自宅のシロアリ被害、追い打ちをかけるように娘の部屋のエアコンが沈黙……。そんな「キャンプどころではない」出費と心労に見舞われた。
癒しが欲しい。
6月28日、宮城県・吹上高原キャンプ場。
とにかく節約を心がけたこの日。キャンプ場内を巡回してくる「生ビール販売車」の姿は、その日の私にはあまりに眩しすぎた。喉を鳴らし、生唾を飲み込みながら、走り去る販売車をただ静かに見送る。
“生ビールは買わない”という修行のようなハードなゲームをクリア。変な満足感を得る。

【9月〜11月】十和田市・八峰町ほか
6月の吹上高原を最後に、私のキャンプは2ヶ月間のオフシーズンに入った。
夏の盛りを避け、エアコンの恩恵をかみしめた。
久しぶりにハンドルを握ったのは、9月12日。青森県・十和田湖にある宇樽部キャンプ場。
車中泊を選び、設営は軽やかに。
と、思いきや、限られたスペースに車路を確保しながらタープを張るのには四苦八苦した。
まあ、設営には手間取ったが、それ以外の時間とエネルギーのすべてを料理に注ぎ込む。
焚き火で焼くフォカッチャに、色とりどりの具材を敷き詰めた「ぎゅうぎゅう焼き」。
湖畔に漂う焼き立てのパンの香りは、日常の騒々しさをすっかり上書きしてくれた。
このパンはカラスに持っていかれかけたけど、今まであれだけの天候と戦ってきた私にしてみれば些細なこと。

9月から12月にかけて、私のキャンプはさらに加速した。
9月26日、御所の台オートキャンプ場。
日本海に落ちる夕日を狙ったが、秋の夕日ははつるべ落とし。一瞬で沈んでしまった夕日にリベンジを誓うとともに、駅に近いこの立地を見て、ある野望が芽生えた。

10月は、家族との思い出の月。
4日は三女と栗拾いを兼ねたデイキャンプでハンバーガーを頬張り、11日は岩手・雫石へ。およそ20年ぶりとなる小岩井農場を訪ねたが、ここでも空は無情の雨。だが、もはや雨は私にとって「日常」だった。

11月、季節は再び荒々しさを増す。
7日の吹上高原では、予想外の暴風雨に見舞われた。かつての大島での経験が活き、動じることはない。

22日にはシーズンオフ直前の秋田県立中央公園で、湯たんぽを入れた即席こたつに足を突っ込み、静かにソロキャンプを楽しんだ。

で留めてるので風にめっぽう弱いから
ダブルクリップで補強している
【12月】北秋田市
12月12日、北欧の杜公園。
2025年の締めくくりは、初訪問となる冬キャンプ場での雪中キャンプ。

春〜秋と冬とで場所が異なる
1月、あのマイナス13.5℃から始まった一年。気がつけば、私は再び雪の上に立っていた。
氷、雪、光、風、雨。そして新緑と夕日。
自然のあらゆる洗礼を浴び続けた一年だったが、その厳しさを知るたびに、私のキャンプはより自由で、より逞しくなった。
御所の台キャンプ場で芽生えた野望、それは「飲み鉄キャンプ」
駅から近いこの立地を知った時に閃いてしまったのだ。
ザックを背負い電車に乗って車窓から海を眺めてプルタブを引く。想像が止まらなくなった。
来春の新しい目標を胸に、私の2025年の旅を、ここで一度閉じる。
⇩今年のキャンプまとめ
#今年の振り返り
