個人事業主のほうが、もしかしたら「お金を稼ぐ」という意味では、ずっとシンプルなのかもしれない。
会社をつくって、経営するようになって、初めて分かったことがある。
それは、「仕事をする人」と「会社を経営する人」では、そもそもの目的が違うということだ。
個人事業主だった頃は、自分が仕事をして、自分が売上をつくって、その中から必要な経費を引いて、残ったものが自分の利益になる。
すごく分かりやすい。
頑張れば、その分だけ自分に返ってくる。
仕事をたくさん受ければ収入は増えるし、効率よく仕事をすれば利益率も上がる。
もちろん、個人事業主にも大変なことはたくさんある。
営業もしなければならない。
仕事もしなければならない。
請求書も出さなければならない。
お金の管理もしなければならない。
でも、最終的には「自分がどれだけ稼ぐか」というところに話が戻ってくる。
ところが、会社をつくると、話がまったく変わる。
売上が100万円あったからといって、その100万円が自分のものになるわけではない。
スタッフがいれば人件費がかかる。
外注費がかかる。
家賃がかかる。
税金がかかる。
社会保険がかかる。
設備投資も必要になる。
そして、何よりも「来月も会社を動かすためのお金」を残しておかなければならない。
つまり、会社の売上と、自分が使えるお金は、まったく別物になる。
最初は、この感覚がよく分からなかった。
「こんなに仕事をしているのに、なぜこんなにお金が残らないんだろう。」
そう思うこともあった。
でも、経営を続けていくうちに、少しずつ分かってきた。
会社を経営するということは、「自分が稼ぐこと」ではない。
「自分以外の人も含めて、継続的に利益を生み出せる仕組みをつくること」なのだ。
ここが、個人事業主と経営者の大きな違いなのだと思う。
そして、もう一つ大きな違いがある。
「仕事に対する目的」そのものが違う。
個人で仕事をしているときは、基本的に自分の生活、自分の成長、自分の収入を中心に考える。
でも、会社になると、自分だけの問題ではなくなる。
一緒に働く人がいる。
取引先がいる。
お客様がいる。
会社としての信用がある。
そして、これから先の未来がある。
だから、「今月いくら稼げるか」だけでは判断できなくなる。
むしろ、今月は利益が少なくても、半年後、一年後に大きな利益を生み出すための投資をすることもある。
新しいサービスをつくる。
人を採用する。
システムをつくる。
営業にお金を使う。
設備を購入する。
新しい市場に挑戦する。
どれも、その瞬間だけを見れば「お金を使っている」だけに見える。
でも、経営者はその先を見なければならない。
だから、経営者になってから、「お金に対する考え方」もかなり変わった。
売上が大きいことが、必ずしも良い会社ではない。
利益が出ていることだけでも十分ではない。
キャッシュが残っているか。
来月も会社を動かせるか。
半年後に何ができるか。
社員やパートナーにどんな未来をつくれるか。
そういうことまで考える必要がある。
そして、ここで初めて気づいた。
「会社を経営する人」と「会社で働く人」は、同じ会社にいても、見ている景色が違う。
これは、どちらが正しいという話ではない。
むしろ、どちらも必要なのだと思う。
現場で良い仕事をする人がいなければ、会社は成長できない。
一方で、経営者が未来を考え、リスクを引き受け、意思決定をしなければ、会社そのものが続かない。
だからこそ、会社を始めてから、人との価値観の違いを感じることも増えた。
「なぜそこまで考える必要があるのか。」
「そこまでやらなくてもいいんじゃないか。」
「今ある仕事だけやればいいんじゃないか。」
そう思う人がいるのも当然だと思う。
でも、経営者にとっては、その「今ある仕事」の先にあるものまで考えなければならない。
会社をつくるということは、単純に仕事の規模を大きくすることではない。
責任の範囲が広くなることだ。
そして、自分一人の人生だけではなく、会社に関わる人たちの時間や未来まで背負うことになる。
だから、正直に言えば、
「個人事業主のほうが、もしかしたらもっと簡単にお金を稼げたんじゃないか。」
と思うことがある。
自分が働いて、自分が稼いで、自分で使う。
それだけなら、こんなに複雑なことを考える必要はなかった。
でも、会社をつくったからこそ見える景色もある。
一人ではできなかった仕事ができるようになる。
自分一人では届かなかった場所に行けるようになる。
誰かと一緒に何かをつくることができる。
そして、自分がいなくても価値を生み出せる仕組みをつくることができる。
そこに、会社を経営する意味があるのだと思う。
「自分がいくら稼げるか」から、
「自分がいなくても、どれだけ価値を生み出せるか」へ。
この考え方に変わっていくことが、経営者になるということなのかもしれない。
まだまだ自分自身も経営者としては未熟だ。
お金のことも、組織のことも、人のことも、毎日のように勉強させられている。
正解があるわけでもない。
ただ、会社をつくってみなければ分からなかったことは、本当にたくさんある。
そして今は、以前よりも「経営」というものが少しだけ分かるようになった気がする。
個人事業主のほうが、もしかしたらお金は稼ぎやすい。
でも、会社をつくると、お金だけでは測れないものをつくることができる。
その違いを知ったことが、会社をつくって一番大きかった学びかもしれない。
