【エッセイ】 帰り道 ―あの日の60秒②―
―― short story ――
あれは、小学校に入学したばかりの春でした。
夕方四時頃――。
「じゃあ、またね」
「うん。またね」
友達の家に遊びに来ていた私は,
手を振り、帰り道を歩いていました。
楽しくて、いつもの道をスキップして帰っていました。
近所の駄菓子屋さんを通り過ぎた場所でのことでした。
一軒家が立ち並ぶ静かな通りを抜けた、その先です。
人の気配はありません。
後ろから若い男性の声がかかりました。
「お嬢ちゃん、何才?」
「六才だよ」
「そうなんだ。お名前は?」
「一年一組⚪︎番、⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎だよ!」
私はにこにこして答えました。
まだ、私の周囲には、優しい近所の大人しか存在していませんでした。
「⚪︎⚪︎ちゃんっていうのか。いい子だね。」
次の瞬間、体が宙に浮いていました。
最後に見えたのは、肩越しに見えたコンクリートの地面でした。
この時の記憶が、はっきりとありません。
でも、きっと60秒くらいだったのだと、思います。
次の記憶は、ぐちゃぐちゃに泣き、
声をあげながら、全力で走っていました。
怖くて、泣いて、夢中で暴れた記憶が、ほんの少しだけ残っています。
空き地と公園を抜けて、大通りに出て、
母が店番をする古本屋の扉を開けました。
座って本を開いている母に、泣きながら何かを言いました。
でも、きっと、何も伝えることはできなかったのでしょう。
母はいつものように、言いました。
「……はいはい。」
急に、私の中を這いずり回っていた感情が静かにしおれていきました。
母の横に、ちょこんと座ると、手元にあった本のページをめくりました。
私の左手には、擦り傷があり、その手はまだ震えていました。
時々、考えてしまう時があります。
もし、あの時、大人しく連れて行かれていたら。
私は……もう。
宵空記念3に参加しています🌿
テーマ『あなたが実体験した怖い話』
怖かったんですよね〜
それでは、また、どこかの物語で🌿
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