【ショート】 雲の上の図書館 ―エフィーリアの森の郵便配達員<外伝>―
―― short story ――
『お疲れさまです!!』
「お疲れさま~」
「お疲れさん!」
夕刻の空に声が響き渡る。
第一騎士団の訓練が終わったようだ。
息を弾ませて天空の回廊を走る。
訓練場に視線を送ると、レオン副団長がにこやかに僕に手を振った。
足を止めずに手を振り返すと、ガルド団長もこちらに気づいて片手を上げた。
視線を戻すと、回廊が途切れる。
『重力操作(グラビティ)』
囁くように唱えながら、異空間から紫色のもやを取り出し空へ点々と放つ。もやの上に飛び移りながら、天空城アルカディアの離れに足を踏み入れた。
今日のお届け先は、ここだった。
天空の図書館――イルメナール。
すごく久しぶりに来た。
重たい扉を開ける。
入り口には、すぐに司書さんが座っていた。
いつもより、声を落として話しかける。
「こんにちは。お届け物です」
指で空間を割いて、荷物を取り出す。
今日の荷物は中箱と小包だった。
手渡すと小包は返される。
「悪いが、中央にいる司書に渡してくれないか」
視線が本棚の上の宙に浮かんでいる本に向けられる。
その本をめくっている制服を着た人が、司書さんなんだろう。
「分かりました」
僕は、小さな声で頭を下げると、本棚の端に設置されている螺旋階段を登り始めた。
螺旋階段の上は、ガラスのように下が見える床だった。
下には、ずらっと書架が並んでいる。
本当に床があるのか、確かめながら歩く。
司書さんに近づくと、声を掛けようとして足を止めた時だった。
司書さんの体が、すうっと本の中へ入り込んでいく。
僕が目を見張っていると、森の絵の中に現れた司書さんは、ほつれた箇所を刺繍糸で縫い始めた。
……修理しているのか。
一瞬、荷物を見る。
司書さんに手を振ってみたが、一生懸命作業をしていて、気づかないみたいだった。
「どうやって渡そう」
僕は、森のページに映る司書さんの肩を、外側から指で叩いてみた。
……反応はない。
今度は顔のあたりを、軽くノックする。
……気づかないなぁ。
頬を掻いていると、次のページにいたライオンが、森の中へ入ってきた。
「司書さん!」
叫ぶと、ようやく司書さんが顔を上げた。
僕は本に手を触れたが入れない。
『重力操作(グラビティ)!』
手に紫色のもやを巻きつけ、もう一度本に触れる。
今度は、するりと中へ通った。
司書さんの腕を掴み、本の外へ引っ張り出す。
次の瞬間、ライオンが目の前でページの境目にぶつかった!
司書さんの悲鳴が上がる。
本の中では、くぐもった咆哮が響いた。
「司書さん!大丈夫ですか」
座り込んでいる司書さんの横に屈むと、司書さんは眼鏡を直しながら苦笑いした。
「……世話になったねぇ。いやぁ、気づかなかったよ」
司書さんは僕を見ると、大きくため息をついた。
「配達員さんがいてくれて助かった……今日は、本の修理の担当だったんだけど、一箇所、綴じ糸が取れちゃっててね」
お尻をはたきながら立ち上がると、僕から小包を受け取った。
「ありがとう、ラキアくん」
「……本、直せたんですか?」
「あぁ、もう少しなんだけどね。あとは、ライオンが別のページに行ったら、続きをやるよ。それか、最終ページにいた狩人にお願いしてみるよ。ありがとうね。」
……狩人さんがいるなら、安心なのかな。
僕はニッと笑うと、頭を下げた。
「また、よろしくお願いします」
僕は宙を歩くように、ガラスの床を進んだ。
入り口の司書さんに頭を下げ、図書館を出る。
本は面白いけれど、危険もいっぱいだ。
外へ出ると、虹の回廊が増えていた。
オレンジ色の空に、色とりどりの橋が広がっている。
みんなが帰る時間だ。
遠くの回廊に、ユトを見つけた。
胸が高鳴り、口元が緩む。
僕は、そのまま空へ跳躍した。
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