【ショート】 ガーベラのひと
―― short story ――
この屋敷には、とても美しい女性がいる。
淡く長い桃色の髪、宝石のような紫の瞳、小さな愛らしい唇。
小柄な彼女の肢体は、女性的なカーブを描いて、
人々を柔らかな微笑で、魅了する。
それなのに、誰も近づかなかった。
ただ、二人だけ。
彼女の妹と、庭師は、彼女を愛していた。
領主は屋敷に寄り付かず、
パーティーの時だけ、飾りのように同伴するだけだった。
妻として扱われることもなく、彼女は屋敷を彷徨った。
気に入らない相手がいると当たり散らした。
宝飾や装飾を買い漁り、領主に文句を言われるまで続けた。
「お姉さま」
後ろから抱きしめられる。
振り向くと、愛らしい笑顔があった。
「お菓子を持ってきたんです。一緒に、お茶にしましょう」
妹は彼女の手を引き、庭に連れていく。
美しい庭園にガーデンテーブルと椅子が二脚だけ用意されていた。
テーブルに生けてある一輪の花は、
彼女の好きなガーベラだった。
そんなある日の夜、
庭で領主と妹が抱き合っているのを見た。
彼女は諦めた。
揃えた服や宝石を売り払い。
誰にも知られずに、庭に出る。
裏庭の崩れた場所から、外へ出る。
すると、馬車が用意されていた。
馬車から出てきたのは、庭師だった。
いつもとは違い、良い身なりをしていた。
……こんな人だっただろうか。
そっと、手を差し伸べられる。
迷わずその手を取った。
馬車の中で、庭師の横顔を見つめる。
彼は、こちらを見なかった。
馬車が止まる。
降りると、見たことのない屋敷だった。
庭師にエスコートされながら、中に入ると、皆が頭を下げた。
執事らしき男が前に出てくる。
「お待ちしておりました。ご主人様。」
「……わたし?」
目を瞬かせる。
キィっと扉が開く音がする。
飛び込んできたのは、嬉しそうな笑顔の妹だった。
「……お姉さま!」
私の胸に飛び込んでくる。
……なぜ。
妹の頬は赤く染まっている。
「見てください。取り戻しましたよ」
――権利書だった。
いたずらっ子のように微笑む妹。
「ご褒美をください」
妹は私の手を引くと、唇の横に口付けた。
そして、妖艶に微笑む。
「私、頑張ったんですよ。お姉さまを蔑ろにする人たちなんて……ふふ」
「……報復されない?」
妹が心配になる。
「……抜かりはないですわ。ね?」
妹の視線は、庭師に注がれる。
彼は、静かに頷く。
そして、跪くと腕を捲って見せた。
紋章。
「……なぜ?」
「お慕いしております」
言葉を失う。
「貴方の価値に、あの男が気づくようなら、すぐに計画を実行する予定でした。愚鈍な男で助かりました。」
「言っときますけど、私の方がお慕いしていますからね。」
妹が口を挟みながら、体を私に押し付ける。
「……立ち話もなんですから、応接室へどうぞ」
執事が案内してくれる。
妹と庭師……いや、騎士に手を差し伸べられる。
二人の手を取ると、
花の香りがした。
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