【ショート】 500年後の約束
―― short story ――
鮮血が吹き出した――。
「離して!」
ゆっくりと遠くに聞こえる美月の泣き叫ぶ声が、俺の胸を抉る。
全身から力が抜ける。
胸を撃ち抜かれた俺は、火星移民船《ARK-500》の搬入口から蹴り落とされた。
美月の腕を拘束する男たちの腕を、いますぐ引きちぎってしまいたかった。
美月に触った奴ら全員――殺してやる。
『火星移民船《ARK-500》――発射』
鈍い音がすると、爆風が巻き起こる。
「全員、船内へ退避!」
兵士たちの声が響く。
「こう、き……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
息ができない。
体が動かない。
痛みよりも痛い。
美月を守れないことが。
轟音がして50m下の地上に叩きつけられる。
「――かはっ」
臓腑から、また鮮血が天に舞う。
全身が痙攣し、視界が白くなる。
歯軋りをして、目を見開く。
鉄の錆びた味がかろうじて意識を保たせていた。
「みづ……き」
――まだだ。
周囲を目だけで見渡す。
汗が目に垂れて痛かった。
――いた。……ついてる。
運をすべて使い果たした気分だった。
俺は最後の力でうつ伏せになる。
動くたびに血を吐いた。
どこが痛いのか、分からない。
異常なくらい全身が震え、視界はぼやけて暗かった。
動くのは左腕だけ。
地面に這うように力を込める。
少しずつ近づく。
震える左手を伸ばす。
地球を離れる際に停止させられた戦闘用人造人間の足に触れた。
機械音とともに装甲が開く。
起動ボタンを押す。
ウィン……
空間に淡い青の表示が出る。
《初期化されています》
口の端が上がったのが分かった。
肩で息をしながら、震える指先を引きちぎる。
鮮血に染めた手を懸命に伸ばした。
胸を開く必要はなかった。
すでに剥がれていたから。
配線を避け、認証ポートに指を差し込み、血を送る。
――持っていけ、おれのすべて。
俺は、科学者だった。
どうなるかは、分かっていた。
もう、人間として目を覚ますことはない。
それでも、俺は今の美月の幸せだけを願う。
最後の美月の泣き顔が浮かぶ。
美月を傷つけさせない。
どんな姿になっても、美月を守る。
——必ず。
「……」
ずるっと腕が落ちる。
見開いた目は、夜空に浮かぶ移民船の上の月に向けられていた。
……静寂に電子音がなった。
『DNA認証開始』
『認証完了』
『人格データ転送開始』
『神経情報転送開始』
『思考、行動、癖、感情、統合中』
『完了まで、500秒』
『使命――美月を傷つけない。守り続ける。』
『行動指針更新――対象を幸福状態へ導く』
『個体識別名――』
「俺の名は、蓮丈光希」
駆動音がして腕を動かす。
胸にそっと手を当てる。
「……胸が痛い」
視界が潤む。
『緊急事態――美月が傷つけられている』
紺碧の瞳が見開く。
人間のように立ち上がると、空を見上げた。
『標的確認――火星移民船《ARK-500》』
「……美月!」
左目から涙が落ちる。
背部の推進ユニットが青白く発光する。
次の瞬間、機体は時速500キロまで一気に加速し、上空へ舞い上がった。
もうすぐ大気圏に入る手前で、
船内に押し込まれようとする美月を見つけると、頭に血が上った。
『戦闘開始』
腕のナイフを装備し、美月の手を掴む兵士の腕を切り裂く。
遅れて響く悲鳴に全員が美月から手を離した。
「せ、戦闘用人造人間!」
「なぜだ!全て停止しただろ」
兵士たちが距離を取り、一斉に発砲する。
壊れていない方の腕で、全ての弾を弾く。
兵士たちが青ざめる姿に、『戦意喪失』と判断する。
美月は呆然と俺を見つめていた。
「……その女は諦めろ。」
船内から勲章をつけた軍服の男が現れる。
「上官!」
「……プロトタイプPT-500だな。現在、船内に科学者及び軍事関係者が他にいない。戦闘用アンドロイドの制御ができる人間が500名の中にいないんだ。太刀打ち不可能だ。女性は半数にも満たない。その女ごと受け入れてやれ。」
『は!』
兵士たちは負傷者を担ぎ、早々に船内へ駆け込んだ。
「定員はオーバーしていたが、その男は受け入れるべきだったな」
呟きに、美月の手が震えるほど強く握り締められる。
「早く入らないと、潰されるぞ」
上官が踵を返す。
地上は、もう遠かった。
呆然と座り込んだまま、ゆっくりと美月が俺を見上げる。
重力の影響を受けないようシールドの膜で美月を覆う。
その瞳には、涙が浮かんでいた。
『危険信号——美月が悲しんでいる』
慌てて駆け寄り、頬を包もうと手を伸ばす。
自分の手が血で汚れ、配線だらけの姿だと確認すると、胸が痛んだ。
触れるのを躊躇っていると、美月の瞳が大きく開いて涙が零れる。
「光希なの……?」
心臓を掴まれた気がした。
囁くような柔らかい声だった。
「光希」
強く抱きしめられていると気付く。
心臓の音がだんだんと早くなり、体が熱くなった。
壊れていない方の腕に温かい感触と甘い香りが鼻をくすぐる。
天にも昇る気持ちとは、このことを言うのか。
「直さないとね……」
涙が、剥がれた胸の配線に落ちる。
美月の指が、
そっとそこを撫でた。
西暦5500年——。
500年前の観測の通り、
地上に残る意思を表明した人々と、
定員から振るい落とされた人々を残して、
——地球は滅亡した。
🎧500年後の約束イメージソング
こちらは歌をお楽しみください。
製作中のため、イントロ以降は静止画となります。
こちらの企画に参加しています🌿
500note祭り開催おめでとうございます✨
今回の作品は、未完成の物語を、
500note祭り仕様にアレンジいたしました☺️
たくさん使いました500✨
いずれ、完成しましたらご覧いただけますと嬉しいです。
完成前に500が来ちゃいました。笑
#なんのはなしですか
この作品は、たかっちさんと出会ったおかげで誕生しました。
実は400の時に頭を過ぎっていた作品です。
本当に、ありがとうございます。
COBIToの初SFの少し長めの物語。
これから勉強しながら、ゆっくり仕上げて行きたいと思います🎶
まだまだ未熟者ですが、少しでもドキドキ見ていただけたら嬉しいです。
それでは、また、どこかの物語で🌿
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