【ショート】 魔物になった少女
―― short story ―—
触れた指先が弾かれた。
あの人は、他の誰かを見ている。
手は、届かない。
私を見たあの人の目は、おぞましいものを見るように歪んだ。
いつからか、鉱山で魔物が出たと噂が広まった。
村人たちの不安は、町の外へ向けられた。
やがて、
勇敢な騎士や魔法使いたちが町へ滞在し、魔物を退けた。
町には少しの平和が戻り、
明日には、旅立つ英雄たちを労っていた。
その日の夜だった。
何か物音がして、目が覚める。
見ると、扉が不自然に開いていた。
ぞわっと背中が震えた時には、
人の気配が頭上にあった。
顔を上げる。
騎士様だった
翌朝、騎士様と魔法使い様の一行は旅立った。
私は町の人に気づかれないように、ふらっと森へ歩いた。
森には魔物がいる。
……でも、どうでもよかった。
だって、あそこにも魔物がいたから。
しばらく歩いていると、辺りが暗くなった。
目の前に、とても言葉にはできないような形をした何かがいた。
不可思議な音が聞こえ、体が震える。
同時に昨日の夜のことが頭に浮かぶ。
ガクッと膝をつく。
心から血が滲んだ。
……
叫んだ声は音にならなかった。
魔物が私に襲いかかる。
「リン!」
声と同時に魔物が吹き飛ばされる。
「大丈夫か?」
ソウが私の顔を覗こうとする。
——自分を引き裂いてやりたいと思ったのは、初めてだった。
ソウを全身で拒否する。
「……リン?」
「触らないで」
聞いたことのない冷たい声が出た。
――もう、会えない。
全力で森の中に駆け込む。
驚くソウの呼び声が聞こえるけど、
別の魔物が現れて私を追ってこれなかった。
そして、私は食べられた。
気がつくと、私もこっち側にいた。
何かが麻痺して、どこかが痛かった。
暗がりから明るい場所を、ただ見つめる。
ずっと、遠くにソウがいた。
それだけで、よかった。
何年も経ち、ソウは他の愛する人を見つけた。
体が痒くなった。
爪を立てる。
硬くなった皮膚が、ぼろぼろと剥がれ落ちた。
それでも、痒かった。
ずっと、見ているだけでよかった。
……なのに。
一度だけで、いい。
近くでソウの顔が見たかった。
優しかった、あの顔をもう一度だけ。
魔物たちが、何か言っている気がした。
でも、止まらなかった。
触れた指先が弾かれた。
あの人は、他の誰かを見ている。
手は、届かない。
私を見たあの人の目は、おぞましいものを見るように歪んだ。
そして、魔法の刃が私を引き裂いた。
心が、軽くなる。
……あぁ。
閉じていく目に、ソウの顔が映る。
……どうして、そんなに苦しそうなの。
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