【ショート】 早朝のバス停
―― short story ――
早起きをした日は、カーディガンを羽織り散歩に出る。
ヒヤリとした空気が肌を撫でる。
まだ、太陽が登り始める前の曖昧な時間帯。
紫色のカーテンが空に広がり、
少しだけ、物悲しくなる日もある。
でも、すぐに空の色が変わり始めるから、
心が開放された気分になったりもする。
人通りの少ない散歩道。
公園の脇を抜けると、少し古びたバス停があった。
……バスが、停まっている。
子供の頃から、よく見るけれど、
バスを見たのは、初めてだった。
――早過ぎる。
私が、出てきたのは、四時半だった。
……こんな時間に?
まだ、五時前だ。
違和感を感じて、まじまじと見つめる。
夜だったら、震えていただろう。
近づくと、運転手さんが座っている。
少し、安堵して声をかけようとする。
女性だった。
「……おはようございます。」
「おはようございます、出発ですよ。お乗りください」
「え……どちらまで行くバスですか?」
「あなたの家ですよ」
……家?
運転手がこちらを見る。
見覚えがあった。
……でも、思い出せない。
「乗るなら、早くして下さい。」
「え、はい。」
思わず、乗り込んでしまう。
「あ、お金持ってないです。」
「後で、働いてもらうので問題ないですよ。」
「は?……やっぱり」
「……揺れますので、お座りください」
バスは本当に揺れた。
慌てて手すりに捕まり、優先席に座る。
他に客はいない。
……帰るなら、いいか。お金をすぐに持ってくれば。
「……あれ?」
私の家って、どこ?
途端に記憶が走馬灯のように駆け巡った。
バスは進む。
虹色の、見覚えのある道へ——。
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