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【ショート】 天使と呼ばれた少女

―― short story ―—

小さな頃から不思議な力を持っていた。

傷ついた動物に手をかざせば傷が消え、
現れた魔物に「来ないで」と願えば、
白い光の膜のようなものが、
私を守ってくれた。

小心者の私は、
――このことを誰にも言わなかった。

ある日、目の前で馬車の事故があった。

街の中を走る貴族の馬車が、
道の横断していた私と同い年くらいの男の子を、
跳ねてしまったのだ。

後ろから、大慌てで母親らしき人が駆け寄る。

ぐったりとした男の子は、
まるで人形のようで、
辺りに散らばった赤だけが現実に見えた。

貴族の馬車の人は降りてくる様子がない。

御者が母親に言葉をかけ、
道を開けるように言っている。

……それだけなの?

私は呆然としてしまった。

そして、願った。
離れた距離で。

――あの男の子の傷が治りますように。

淡い白い光が男の子を包む。

少しすると、男の子の指先がピクッと動く。

母親の男の子の名を呼ぶ声が響く。

次に歓喜の泣き声が聞こえた。

……離れてても、傷が治せるみたい。

周囲はどよめいている。
でも、私がやったとは誰も気づかない。

「……キセキだ!」
「キセキが起きたぞ!」
「神の祝福か?」

「何事だ!」
一際、通る声が響き渡る。

憲兵だ。

もう一度だけ、親子の方を見る。
泣きながら微笑んでいる母親。
男の子は立ち上がって、
不思議そうな顔をして、周囲を見渡していた。

元気そうな様子を見て、ほっとする。

踵を返して、その場を去る。

喧騒から逃れると、
とぼとぼと裏路地へ帰る。

私の現実はここだ――。

14歳になった時、
私は売られた。
悲しくはなかった。

もう、感情はどこかに置いてきてしまったから——。

不幸中の幸いにも、
ご主人様は私に無体なことをしない人だった。

私が成長すると、
ご主人様は私を愛人にしてくれた。

普通の暮らしができるようになり、
初めて、外の世界の話が少しづつ聞こえるようになった。

この国には、代々ある一族に聖女が現れ、
王太子と結婚するそうだが……
今代には現れず、探しても見つからなかったそうだ。

その代わりに、
この国には天使がいるという噂が絶えなかった。

聞くと、どうやら、
全て私がしたことだと、
すぐに分かった。

――天使か。

普通の人間なのにな。

庭でお茶をしながら、
ゆっくりと時間を過ごす。

全て、ご主人様が用意してくれたものだ。

「私の天使」
振り返ると、そこには年の変わらないご主人様がいた。
王家の紋章の入った、白が基調の騎士服が誇らしい。

私の表情を見ると、柔和な微笑みを浮かべて、
頬にキスをくれる。

そういえば、ご主人様はいつも私を「天使」と呼ぶ。
深く考えたことはなかった。

だから、
あの日の馬車に跳ねられた男の子が、彼だったことも。

そして、
私を探し続けていたことも。
知らないままだ。



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