【ショート】 持たなかったもの
―― short story ―—
昔むかしあるところに、
誰にも必要とされなかった美しい少女がいました。
両親に先立たれ、少女はひとりぼっちになってしまいました。
村人たちは可哀想な子と不憫に思いましたが、
助けてくれる人はいませんでした。
しかし、少女は淋しくはありませんでした。
少女は村人たちの言うところの『出来損ない』でした。
生活に必要だったことは、
母親が生前にしっかりと教えてくれました。
少女は言われた通り、朝には、森に行き、
木の実や果物を採ってきます。
食事をし、昼のうちに支度をして、
夜には眠りました。
穏やかに暮らしていたある日、
よからぬことを考える村人たちが、
少女の家を訪れました。
恐怖を感じた少女は、家の裏手の扉から、
そっと逃げ出しました。
追ってくる村人たちを振り切りながら、
必死に森の奥まで全力で走りました。
草むらを抜けて、その先は――
崖でした。
そして、少女は空を見ました。
次に目を覚ました、
その時……
――前世を思い出した。
そう、私は一度、死んだのだった。
孤独だったけど、ちゃんと生きていた。
それを、村人たちに壊された。
とても、不思議な感覚だった。
私は再び村人として生きているのだ。
前世の私が死んだのは、確か一年前、
風の噂で耳にした。
私は、この村の村長の娘だった。
それも、『出来損ない』と呼ばれていた娘として。
今の私は、考えることができている。
……二人で一人だったのかもしれない。
ふと、思った。
村の外れに住んでいた少女は、
とても美しい容姿をしていると騒がれていた。
金の髪に、青い瞳、白い肌。
でも、村長の娘である私は、
そばかすにくすんだ茶色の髪、焼けた肌。
垂れた目は情けないと揶揄されたものだ。
比べると劣等感に苛まれるはずが、
今の私は、全くそうは思わない。
彼女が容姿という概念を持っていないことを、
よく知っているからだ。
今の私は、自分の姿が愛おしく思えた。
立ち上がると、窓を大きく開けた。
朝日が昇る。
私が住んでいた森の外れの家が小さく見えた。
「あ……」
声を出す。
朝の光が眩しい。
「あ……おはよう」
私は、生まれて初めて言葉を持った。
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