【ショート】 一度だけ戻る日
―― short story ――
――全速力で走る。
今なら……。
息を弾ませながら、歩道を走る。
信号が邪魔すぎる。
小さい道は、信号無視をして進む。
塀を乗り越えると、民家が立ち並ぶ。
この小道を通るのが、一番、早かった。
道が開けると、土手が広がる。
橋を渡ると、土手の反対側にある南塚おひさま公園が見えてくる。公園の中には、幼稚園のいちご組とぶどう組の子供たちの楽しそうな声が響いている。
――間に合う。
喉は焼けるように乾燥している。
それでも、構わず足を動かす。
高校生の体。
まだ、走れる。
そして、その時が来た。
道の向こう、車が滑るように曲がる。
速度がおかしい。
加速する。
「逃げて---!」
叫ぶと、先生たちがすぐに反応した。
硬直している先生もいるが、子供を抱き抱えて走ってくれる先生もいた。
砂場に残ったのは、二人。
公園の柵を飛び越える。
子供達は笑っている。
一人は、まだ、砂場を見ている。
二人の首根っこを掴む。
飛ぶ。
息を止める。
鈍い音。爆風。
止まらないクラクション。
子供達を抱きしめたまま、フェンスに背中を打ち、一瞬、意識が飛ぶ。
喉が焼けたかのように、息が吸えない。
むせたいのに、出ない。
目の焦点が合わない。
それでも、子供達を見た。
泣いている。
……よかった。
目の前が暗くなる。
目を開くと、朝だった。
体は、いつものように重い。
「楓。おはよう」
障子が開き、信じられない人が笑顔を見せる。
ぽろっと涙が落ちる。
「あ?……何、泣いてんだよ」
涙を袖で拭ってくれる。
「ほれ、リハビリ行くぞ。」
玲が私をひょいと抱き上げる。
……そうだ。走れない。
「玲って、こんな顔してたっけ?」
「あ?……お前、変な夢でも見た?」
「……もっと、可愛かったと思ったの」
「……ケンカ売ってんのか」
感慨深くて黙る。
「……変なやつだな。ま、いつものことか」
ため息をつくと、障子の向こうに出る。
縁側から見える街並みは、変わらなかった。
……なんだっけ。
「楓」
見上げる。
「ありがとうな」
笑う。
「すき」
黙る。
「……知ってる」
砂場で遊んでた時から、ずっと――。
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