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【ショート】 窓辺の約束

―― short story ――

――五年後、またここで会おう。その時は……

その言葉と、ランプの明かりは静かに去っていった。

ぽつぽつと雨の音が耳に入る。
立ち上がり、窓の雨戸を閉める。
雲が真っ暗だった。
遠くの方で鈍い音がして稲光が見えた気がした。
こちらまで来そうだった。
私は、そっと腰を下ろすと暗くなった部屋に灯りを灯す。
ランプを近づけると、ノートを開いた。
私は、明日、ここを出る。
遠い昔のように感じる約束は、果たせそうもない。
小さく息を漏らすと、今日の出来事を簡単に綴る。
別に書くほどのことはない。
ペンを取る。

知らないおじさんが来た。
二度目だった。
母に呼ばれて行くと、おじさんは私を上から下までじっと見た。
母は頷いて、何かを受け取った。
そして、兄弟はいないと言っていた。

「お姉ちゃーん」
ペンを置いて、ノートを閉じる。
振り返ると、4つ年下のリルが本を持ってきた。
「ここから読んで欲しいの」
「……おいで」
明日からは、読んであげられないから。
私は、快諾してリルに椅子を用意した。

翌朝、私はおじさんに手を引かれて知らない場所に来た。
一度だけ振り返る。
母は私が嫌いだったのだろうか。
表情からは、分からなかった。

十年が経った。
今でも、時々、思い出す。
だから、今もこうして窓辺に肘をつく。
心地のいい風が、私の整えられた髪をさらっていった。
昼間は静かでいい。
誰も、私の邪魔をしない。
少し強めの香だけが、鼻についた。
窓の外で木の葉が擦れ合う音に、
うっとりと耳を傾ける。
目を閉じると、ふと視界が翳った。
少ししてから、顔を上げる。
窓の外に男が立っていた。
……まさか。
胸がざわつき、目を見張る。

「こんないい女になれなんて言ってない」

少し鋭くて、でも、砕けたような表情が変わらない。
長身を丸めると、私のシルクで織られた衣を掴んで、顔を寄せる。

「……十年経っちまったけど。」

覗いた瞳は、潤んでいた。

「俺も、お前の男の一人になりたい」

頭が真っ白になる。

……だったら、一夜、買えばいいのに。

そういう場所でしか、もう呼ばれない体だった。

下を向くと、顎に手がかかる。

「……今日から、お前は俺の妻だ。」

――何を言っているの?

胸の中の燻りが、少しずつ大きくなる。
どれだけ必要なのか、知っているのだろうか。

「もう身請けしてきた。……行こう」

……は?

勢いよく仰ぎ見ると、抱き上げられる。
想像したよりも大きな手が、私の体を包む。

どうして、気がつかなかったんだろう。



随分、良い身なりをしていた。


私たちは、何も持っていなかったはずだ。



私はノートとペン。
彼は、ナイフとランプ。

それしか。

なのに……

唇が、小さくわなないた。
体の中を何かが這い回る。

「……わたし、」

遮るように、口付けが落ちる。

「約束しただろ。ずっと、一緒にいよう」

「でも……」

思い詰めた瞳が目の前にある。

「もう、何があっても一緒だ」

必死な声が、私の耳をくすぐる。


あの窓辺が、頭を過ぎる。
……もう、手遅れなのに。



彼の衣服を強く握ると、私の頬が濡れた。






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