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【ショート】 存在

―― short story ――

「結婚しよう」
じんわりと熱が上がる。
「うん」
微笑んで答えると、彼の瞳が潤んだ。

後ろから抱きしめられる。
振り向くと、大好きな人がいた。
優しい笑顔で私を見ている。
でも……
言葉なく、見つめ返す。
そっと、口付けが落ちてくる。
嬉しかった。

ソファで横になって、肩に頭を預ける。
雑誌をぱらぱらとめくりながら、あくびをする。
……今日は、日曜日?
雑誌を取り上げられると、膝枕をしてくれた。
やわらかく頭を撫でられると、気持ちが良くて心がほどけた。

朝、目が覚める。
隣にいるはずの人の名前が、出てこない。
ずっと前からだったのかもしれない。
見つめていると、目がゆっくりと開く。
「おはよう」
……どうしよう。
言葉が出ない。
彼は言った。

「結婚しよう」

そして、思い出す。
彼は、私の記憶が消えるたびに、そう言った。
彼は、名前を言わなかった。

顔が近づくと、頬に雫が落ちる。

……あれ、なんだっけ。

でも、いいか。

ただ、あたたかい。




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