【ショート】 忘れられない花
―― short story ―—
「こんにちは」
笑顔を向け、元気に挨拶をする。
先ほどから、
一人の老人が、
花屋の前で立ち尽くしていた。
私に話しかけられると、
置き物のようだった老人が、
やっと、動き出す。
これが、いつものルーティンだ。
私は、他のお客様の接客が終わると、
老人を少し待たせてから、
ご希望の花を用意する。
「今日もいつもの花でいいですか?」
私が問いかけると、
首を縦にゆっくりと振った。
白のカスミソウを包むと、
老人へ渡す。
代金を私の手に乗せると、
花を持って去っていく。
もう三週間もこの調子だった。
一日の中で、時間は決まっていない。
朝、来る時もあれば、
夕方の閉店間際に来ることもある。
今は、昼の十二時半。
私はふぅ、とため息をつく。
「店長、休憩行ってください。」
後ろから声がかかる。
「はーい。ありがとう」
私は店の裏に引っ込んだ。
次の日の朝、
店の前に老人が立っていた。
……まだ、開店前なのにな。
「おはようございます。」
私は、声をかけた。
少し早いけど、お待たせするのも、
申し訳なくて駆け寄った。
「いつもの花でいいですか?」
「……ピンクを」
久しぶりにきいた声に少し驚いた。
「ピンクのカスミソウですね。お待ち下さい。」
私は、店に戻って急いで、
ピンクのカスミソウを包む。
そして、老人へ手渡した。
老人は代金を払った後に、
私に花束を返してきた。
「……どうされましたか?」
不手際があっただろうかと頭を悩ます。
しかし、違った。
「君にあげよう」
老人はそういうと、私の手に花を握らせる。
「……あ」
老人は行ってしまう。
そして、
もう店には現れなかった。
帰り道、
ふと、昔を思い出した。
『俺、花屋になるんだ』
『将来の夢?』
『うん。そうしたら、お前の好きなカスミソウを贈るよ。』
『……じゃあ、ピンクにしてね。』
『分かった。……必ず』
気がつけば、
俺は花屋の前に立っていた。
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