【ショート】 白銀の森の案内人|エフィーリアの森の郵便配達員<外伝>
―― short story ――
湿った土を踏み、暗い木々のあいだを抜ける。
ふいに視界が開けた。
そこだけ、雪が降ったかのように白い。
陽を受けて落ちる葉が、銀色にきらめいていた。
森の奥には、小さな集落がある。
集落の入り口にある小屋の中から、何やら声が聞こえてくる。
「おーい、じいさん。できたぞ。」
青髪の青年は、打ち終えたナタを持ち上げ、刃を眺める。
後ろから、のそっと老人が顔を出し、
差し出したナタの柄を、細く嗄れた手で掴む。
「どれどれ。……ふむ。よい出来じゃ」
俺は嘆息すると立ち上がる。
もうすぐ昼時だった。
ちりん
白銀の木の実が落ちる。
じいさんは、「おや」という顔をする。俺もつられて窓の外を見る。
「珍しいのぉ」
じいさんはナタを工具箱へしまい、椅子に腰を下ろす。
俺は戸を開け、小屋の外へ出た。
しゃり、と、細かい白の土を踏み、まるで雪のような世界へ歩き出す。
穏やかな風が白銀の葉を揺らし、静かな鈴のような音が辺りに響いた。
集落の入り口に向かうと、フードを被った小柄な女性が一人、立っている。
風で靡くフードから茶の髪がたなびく。
垣間見えた顔立ちに、息を呑んだ。
身が引き締まる。
俺は背筋を伸ばし、足を一歩引くと、少し仰々しく頭を下げて挨拶をした。
「ようこそ、白銀の森へ」
――決まった。
口角が自然と上がるのを抑える。
顔を上げると、目を見張った。
女性の優しげな瞳から水晶のような雫が流れ、落ちる。
慌てて服の内側から布地を取り出すと、一歩踏み出し屈む。
差し出すと、彼女は俺の手ごと包み込んで笑った。
「ありがとう」
……まずい。破壊力がありすぎる。
俺の手の甲に涙が落ちる。
拭うのが勿体なく感じて見つめていると、涙は白銀の地に流れた。
ふいに、水辺の香りがして顔を上げる。
近かった。
彼女の瞳が俺を捉えて離さない。
「あなたが……案内人?」
小首を傾げる彼女の瞳には、まだ涙が揺れている。
素直に頷くと、彼女の口元が綻んだ。
思考が狂う。
全身全霊で彼女を口説けと、本能が騒いでいる。
ふと、目をやると、
彼女の肩は小刻みに震えていた。
肩の力を抜き、
彼女の手を握り返した。
「お望みは?」
彼女の瞳に光が差す。
「あなたよ」
……ん?
ええと。
うん。
……。
はい、どうぞ。
深く険しい森の先に、ひっそりと潜む幻の森。
訪れた人の願いを、一つ叶えるという。
――ここは、白銀の森。
本編(完結済)はこちら🌿
いいなと思ったら応援しよう!
この物語を楽しんでいただけたら、そっと応援していただけると嬉しいです。いただいたチップは、物語を続けていく力に使わせていただきます。