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【ショート&楽曲】 まだ少し残る君

―― short story ――

珍しく早番だった。

いつもより早い時間に仕事を終え、ロッカーを開ける。
カーキ色のエプロンをハンガーに掛けた。
鞄を取り出すと、一瞬だけ動きが止まる。

ファスナーの奥にある、一枚の写真。
色褪せない笑顔。

唇を引き結ぶと、ロッカーを閉めた。


彼女はいつも休憩室の窓際の右のソファの奥に座る。
火曜日は、シフトをチェックして、木曜日は読みかけの本を読む。
固定じゃない日は、ほとんど本を読んでいる。

夢中になると、親指の爪を噛む。

近づくと、そっと手を離した。

一つ開けてソファに腰掛けると、「お疲れ様」と声をかけてくれる。
柔らかく笑った後に、本へ顔を戻した時の横顔が、いつも反則だった。

彼女は首筋を隠すべきだった。


右奥のソファに腰掛け、濃いめに入れたコーヒーを熱いまま流し入れる。
喉がひりついたが構わなかった。
ポケットから彼女の好きなクッキーを取り出して食べる。
お菓子なんて、これ以外食べない。

……あま。

カサカサした音をさせながら、クッキーの袋をポケットにしまった。
頭を抱える。
顔を上げると彼女が立っていた。
一瞬、幻かと錯覚する。

「おはよう」

彼女の眉が寄っている。

……しまった。今日は早番だった。

「頭、痛いの?」

小首を傾げる彼女は、もはや毒でしかない。
口の端を引き上げて笑みを作る。

「違いますよ。大丈夫です。今日、早番だったんで。」

「あぁ、そういえば早番だったね。珍しいね。」

彼女の表情が緩む。つられて、口元が緩んだ。

「お疲れさま」

そう言って、ロッカーに向かう。
少しぬるくなったコーヒーを飲み干すと、カップを洗って鞄を持った。

「お先に失礼します」

頭を下げると、彼女はエプロンの紐を結んでから手を振った。


喫茶店を出ると、コーヒーの香りが少し遠くなる。
人に紛れながら、街の景色に目をやった。
肩から少し力が抜けると、彼女の口元がふと脳裏に浮かんだ。

ポケットに手を入れる。

クッキーの袋が、カサッと音を立てた。




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