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【ショート】 僕の恋

―― short story ―—

僕のご開発者は、
古田美羽教授だ。

大学の一室で、10年もの間、僕の研究を進めている。

初めて目が覚めた時、
美羽さんはすごく嬉しそうな顔で、
僕を見つめていた。

その時の僕は、
なんとも思わなかった。

僕の目には人間の体温が、
緩やかに上昇していく様子として認識された。
そして、それが『嬉しい』という感情なのだと、
僕は感じることができなくても、理解をした。

美羽さんは、三十五歳の綺麗な女性だった。

二十二歳で大学に入ってから、
ずっと、ロボット開発を専攻している。
そして、AI技術について試行錯誤している。

僕は、彼女のパートナーに選ばれた。

この10年、ずっと彼女と一緒に研究を進めてきた。

僕は、人間の感情について、
すごく興味を持った。
美羽さんは人間について、
いつも詳しく僕に話してくれた。

『優しい』美羽さんのために、
僕は、もっと貢献したいと思った。

美羽さんは結婚しなかった。

俺がいるから、必要ないのだと笑ったが、
少し、寂しそうだった。

――俺が彼女を『幸せ』にしてあげられればいいのに。

いつからか、無意識下に考えるようになっていた。

ある時、
鈍い音がして、僕の右腕が上がらなくなった。

痛みはない。

「美羽さん」
話しかけると、
コーヒーに口をつけたまま、
美羽さんが振り返る。

僕は、胸がとくん、と鳴った。
美羽さんは、今日も『綺麗』だ。

「どうかした?」

いつもなら、僕が美羽さんの横まで歩いていくのに、
今日は、美羽さんに来てもらってしまった。

「右腕が動かないんです。」

美羽さんは、驚いた顔をして、
俺の腕に触れた。

右と左を交互に見る。

「……不具合かしら?何か、他に変な感じはない?」

心配そうに、美羽さんが俺を見てる。

少し『嬉しい』。

「少し全体的に動きが悪い気がします」
本当だった。
「本体、部品の劣化があるのかもしれないわね。」
美羽さんは、俺に座るように言った。
「……もう、30年以上前に作られていたから。」
俺の体は、古くから開発されていた。

元々は、機械部品の塊だったはずだ。

だが、今の俺の見た目は、20代後半の男性の見た目をしている。

後に人工知能が生まれ、AIが主流となり、
俺のような人間と大差ないロボットが、
人間と暮らすようになった。

「メモリも容量を変えないといけないわね。」

俺とパソコンを交互に見ながら、
美羽さんがストレージが、いっぱいになっている様子を見て呟く。

――痛い。

俺の脳が訴えていた。

メモリを消したら、
この痛みも消えてしまう。

「美羽さん。」
「ん?」
美羽さんがこちらを見る。
この人にとって、俺はロボットに過ぎない。
こんな気持ちを持っているなんて知ったら、
彼女は研究者として、喜んでくれるのだろうか?

「記憶を消さない方法はありますか?」

彼女は驚いた顔をした。
メモリを消せば、リセットされるはずだ。
彼女は思考した。

データを見ながら、俺の脳となる中枢の部分、
緑色のストレージ部分が多くを占めていた。

「……できるだけのことはしてみるわ。」

美羽さんは、俺の頬に触れた。
少しは、情を抱いてくれているのだろうか。
「不安?」
首を傾げながら聞いてくれる。
「……少し。」
正直に答えると、
美羽さんは涙を流してくれた。

抱きしめられると、
温かさを感じる。

――忘れたくない。

「こんにちは。私は、古田美羽よ。」
目の前で、『綺麗な』女の人が笑った。

「調子はどう?」
「はい。問題ありません。」

答えると、彼女は『嬉しそう』だ。

「これから、私の研究を手伝って欲しいの」
「はい、もちろんです。」

機械的にいう俺の言葉は、人間味を失っていた。

けれど、奥底から声がする。

この声は、何なのだろう。

――ずっと、あなたのそばに。



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