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【ショート】 選択肢 : B.途中から

―― short story ――

――あなたの名前を教えて下さい。

……ここは、どこ?

目に映るのは、真っ暗な闇。

――あなたの名前を教えて下さい。

繰り返される言葉。
機械的な男性の声だった。
「みゆきです。」
答えると、闇が揺らいだ気がした。

――みゆき様ですね。アップロードします。

鈍い音が響く。

――アップロードしました。

闇の中に、文字が浮かび上がる。

選択肢:
A. はじめから
B. 途中から

――ボタンを選択して下さい。

唖然として、目の前を見つめる。

……なにこれ。選ぶってどうやって?

周囲を見渡すと、白で光る文字以外は、
変わらず闇が広がっている。

逃げ場がないように心が追い詰められる。

……これ、途中からって選択する人いるのかしら?

疑問に思いながら、
Aの白いボタンを押してみる。

すると、『はじめから』の文字が光り、
点滅した。

――ようこそ。愛と冒険の世界へ。

辺りが真っ白に光ると、
私も包まれて消えた。

そして、私の人生が始まった――。


気がつくと、
真っ黒な闇の中にいた。

……また、ここ。

私は人生を生き延びた。

RPGのような世界に生まれ、
勇者一行と共に、旅に出た。
そして、魔王を倒し平和を取り戻し、
余生を過ごした。

今、目の前には、また選択肢がある。

選択肢:
A. はじめから
B. 途中から

……途中からにしたら、どうなるの?

前の記憶を思い出す。

私は、今度はBを押した。
すると、『途中から』の文字が光り、
点滅した。

――ようこそ。愛と冒険の世界へ。

辺りが真っ白に光ると、
私も包まれて消えた。

そして、私の人生は……。

納得がいった――。

こういうことか、と。

目の前で、
私に愛を囁いた勇者と、
魔法使いの女が抱き合っている。
私は木陰に隠れて、様子を見ていた。
前回は、勇者の本当の気持ちを知って、
私は他の騎士と結婚したのだ。
他に女がいるくせに、
未練がましく何度も求愛してくる姿は、
幻滅するのに十分だった。

あの時に戻されるなんて……。

私はもう知っている結末にため息をつき、
前回と同じように立ち去ろうとした。

その時だった――。

ドンっと離れていても、
分かるような大きな音が聞こえ、
びっくりして二人の様子を見た。

魔法使いの女が尻餅をついて、
勇者に非難の目線を送った。

だが、勇者の方が憤っているように見えた。

「……いい加減にしろ。」
こんなに怖い勇者は初めて見た。

「これ以上、脅すようなら、こちらにも考えがある。」

……え?

勇者は魔法使いの女を強く睨む。

「いいの~?このままだと、あのクソ女、どうなっても知らないわよ~。」

勇者は強く手を握りしめた。

――あぁ、やり直せるのね。

頬から一筋、涙が落ちる。
見えない選択肢を選んだ気がした。



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