【ショート】 すべて知っている人
―― short story ――
「今日は雨が降るから持ってって」
差し出された折り畳み傘を受け取る。
……天気予報見てなかった。
「青色よりも、こっちの黄色の方が似合うよ」
鏡の前で、私の髪を横に避けると、ネックレスを合わせてくれる。
……そうかも。
「今日は映画はやめて、公園散歩してから家で過ごそうか」
彼の手が私のおでこに触れる。
……分かっちゃったかな?
「車じゃなくて、電車にしよう」
私の分のリュックも持ってくれる。
……やさしい。
「これがいいんじゃない?」
本棚から参考書を取ってくれる。
……うん。これにしよう。
「……少し、夜更かししようか」
いつもとは違う顔で笑う。
……すき。
「紗奈の彼氏ってかっこいいよね~」
食堂で美咲がお菓子をつまみながら笑う。
「……うん。」
……かっこいいだけじゃないんだよね。
いつからだろう。
初めから、こんなに優しい人じゃなかった。
気遣いができるというか……。
私が高校を卒業した頃からだ。
前より、ずっと過保護になった。
なんというか。
全部、思い通りになる。
その過程に、必ず彼がいる。
「紗奈、美咲、飯食った?」
「まこと」
美咲と声の方を見る。
誠が手を振る。
「もう食べ終わったし」
美咲が言う。
「そっかー。俺、これから。なんにしよ。午後も授業なんだよね」
あと、10分しかない。
「軽いのにしたら?」
「だよな~」
誠は食堂でパンを買うと、戻ってきて私の横に座った。
紙コップに入れた水を机に置き、そのままパンを頬張る。
「今日、何限まで?」
私と美咲を横目で見る。
「私、3限」
「私も」
「お、俺も。じゃあさ、みんなでどっか……」
「紗奈」
いつの間に来たのか、テーブルの前に立っている。
誠の口は開いたままだ。
少し息を吐く。
「ごめん。また、今度ね。」
立ち上がると、リュックを持って二人に手を振る。
美咲は笑顔で、誠は口がへの字に曲がっていた。
……おかしいの。
思わず口を緩めていると、彼の手が私の手に絡む。
視線を上げると、いつもの笑顔。
「俺も3限まで」
「……おうち行っていい?」
「もちろん」
腕が当たる。
「……絶対、怪しい」
「何が?」
「あいつだよ。紗奈のこといやらしい目で見やがって」
「あんたのこと?」
「……」
「否定しなさいよ」
「俺たち、中学から一緒だろ。」
「そうね」
「あんなやついたか?」
「……付き合い始めたのって、別に大学に入ってからじゃん。どっかで出会ったんでしょ」
「いや、違うよ。最近、思い出したんだ。付き合ってたんだよ、俺。……紗奈と」
「は?」
「あいつが、……割り込んできたんだ」
紙コップがくしゃっと潰れた。
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