【ショート】 太陽の伴侶
―― short story ―—
目が覚めると、
そこは花畑だった。
晴れ渡る空と、鳥のさえずり。
優しく吹く風に、赤色の髪がなびく。
森の中の花畑の前は、どこまでも、どこまでも続く草原だった。
私の手には、色とりどりの美しい花々が摘み取ってあり、
大事そうに抱えている。
辺りを見渡すと、
髪に飾っていたのだろう黄色の花が落ちる。
芳しい花の香りが私の鼻をくすぐる。
夢のように、心洗われる美しい景色とは裏腹に、
私の心は深く沈む。
……ここはどこなの?
ふわりと少し強い風が吹き、
座り込んだ私の白とピンクのドレスが揺れる。
見上げると、太陽の日差しが少しだけ痛かった。
――ついてない。
今日は、俺が当番だった。
すっかり忘れていて、放置してしまった。
また、あのワガママ姫はどこかに行ってしまったのだろう。
深くため息をつくと、
周囲を見渡す。
姫の行きそうなところを手当たり次第、
探したが、どこにもいない。
最初は、姫の部屋、次に庭の庭園、図書室、談話室、
王にも報告し、あり得ないとは思ったが、ご兄弟のところにも足を運んだ。
この国の第三王女は、気が触れていると言われている。
きちんと受け答えはしないし、
急に人を叩いたり、何も言わずにどこかへ行ってしまう。
しかし、彼女を無碍にできない理由があった。
この王国は遥か昔に、
聖女に国を救ってもらった記録が残っている。
それ以来、教会の大司教は女神ティラーネの信託を受けると、
その教えに従う。
そして、16年前に受けた信託は、
『王国の第三王女の伴侶が太陽となる』
というものだった。
第二王妃が、第三王女を授かった時は、
国は大騒ぎだった。
俺も子供ながらに記憶している。
しかし、第三王女が成長すると、
皆、彼女の優秀でない姿に、
戸惑いを隠せなくなった。
国を任せる器でないと、判断されてからは、
はたから見ても、ひどいものだった。
十四歳にもなると、あまりの美しさに、
皆、息を呑んだ。
艶やかな赤い髪は、人目を惹き、
金色の瞳は輝いている。
金は王家を示す色だった。
他の王女たちと比べても、
彼女は別格の美女だった。
だからこそ、皆、残念がった。
「団長!」
後ろから、声をかけられる。
「何か、あったか?」
「会議ですが、少し前倒ししたいと銀龍騎士団より通達がありました」
「……わかった。」
何かあったようだな。
「ゼン。第三王女を探してきてくれないか?」
ゼンと呼ばれた隊員は目を丸くした。
「……私がですか?」
「今日は、俺が見張りだったんだが、見失ったんだ。
まだ、見つかってない。」
バツが悪く頭を掻いて、二度目のため息をつく。
「……承知しました。必ず、探して参ります。」
隊員は頭を下げ、団長と呼ばれた男は、真逆の方向へ進んだ。
ゼンと呼ばれた男は、走って城門より先にある森に向かった。
森の近くにある草原の手前の花畑は、
ライラ様のお気に入りの場所だった。
お慕いしている方のいる場所など、
すぐに分かる。
彼女は、本当に心優しい方なのだ。
きちんと受け答えしないのは、相手の意図が見えてしまっているから。
急に人を叩いているように見えるのは、相手の悪意が見えるから。
何も言わずに行ってしまうのは、
伝えていることを、きちんと報告しない侍女たちのせいだ。
他の王女たちが嫉妬して、誘導しているんだろう。
思考を巡らせながらも、足を早める。
森に着くと、
麗しき聖女がそこにいた。
花を抱えて、遠くを見ている。
こんなに絵になる光景があるだろうか。
足音がして、振り返ると、
そこには、端正な顔をした騎士様が立っていた。
そして、彼を見た途端に思い出した。
私はこの国の第三王女であり、
遥か昔に聖女と呼ばれた女であったことを。
「お迎えに上がりました。」
膝をつき、頭を垂れる騎士様。
黙っていると、
彼の黒い瞳が私を見つめる。
その途端、胸をぎゅっと掴まれたように締め付けられた。
——あぁ、この人を王にするために、私はまた生まれてきたのね。
そう、強く思った。
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