【ショート】 赤い髪と白い靴
―― short story ―—
その庭では、
時間が少しだけ、
緩やかだった。
彼女は白い靴を履き、
彼はいつも、
靴を汚している。
赤い髪の男の子だった。
風の中にいるような子で、
立ち止まることを知らなかった。
彼は塀を越え、
木に登り、
叱られても、
笑った。
彼女は、
その後ろから歩いた。
転ばないように、
少しだけ距離を保って。
「危ないよ」
そう言うと、
彼は振り返り、
決まって聞いていない顔をした。
それでも、
戻ってきては、
彼女の手を引いた。
庭の奥の裏山には、
町が一望できる丘があった。
一番高いところに立って、
二人は飽きることなく景色を眺めた。
帰り道は手をつないで笑った。
次の日の午後、
彼は塀の向こうへ帰っていった。
約束は、しなかった。
そのあともしばらく、
彼はいつものように来た。
そして、ある日を境に、
来なくなった。
理由は、
誰も教えなかった。
裏山の丘の上からの景色は、
あの頃と変わらない。
赤い髪と、
汚れた白い靴と、
二人で眺めた景色。
それだけが今も、
庭の奥に、
静かに残っている。
無邪気に笑っていられた日の、
記憶だけ。
白い靴は、もう汚れなくなっていた。
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