【ショート】 春を閉じ込めた瓶
―― short story ――
『おい!出せよっ』
冬の静かな日差しが照らす窓辺から、カタカタと音がした。
冷えた風が吹き抜け、木目の板の上で不自然に瓶が揺れる。
瓶の中からくぐもった声が、小さく部屋に響いていた。
光の粉のようなものが舞い上がり、空中でチカチカと光る。
しなやかな女性の手がその瓶の周囲を舞う光を一つ包む。
「元気のよいこと」
凛とした声に、瓶の揺れがおさまる。
『おい!早く、出せ!』
瓶の中に入っていた草花の下から一人の少年が顔を出した。
埋もれていたのか、体を持ち上げようと必死に手を動かしている。
女性はその姿を見ながら、瓶を持ち上げ、手にのせる。
目を細めると、口元を綻ばせた。
「かわいらしいこと」
ぷちっと、何かが切れる音がする。
そっと、瓶を木目の机へ置くと、激しくガタガタと揺れた。
思わずといった様子で女性は、くすくすと首を傾げて笑う。
「今、出ると気候が崩れるでしょう。」
『別に外に行かなきゃいいだろう!』
「だって、あなた、私に触れてくるじゃない」
瓶の揺れが止まる。
『……はぁ~!頭、湧いてんのか、コラァ!』
くすくす笑う声が響く。
やがて、瓶の中の緑はさらに色を濃くした。
瓶の蓋を開けると、温かい空気が漏れ出した。
橙色と黄色に桃色、若草色が周囲に広がる。
小さな少年は瓶から飛び出すと、青年へと姿を変え女性を抱きしめた。
女性を寝台に横たえ、青年はやさしく囁く。
「おやすみ」
女性は目を伏せたまま、ふわりと微笑んだ。
そっと身を離した青年は、窓を開けて外へ飛び出す。
「……もう、瓶には戻らないからな。」
残された言葉に、口元が歪む。
「いつも、帰ってくるくせに……」
目を閉じると、あたたかな空気が部屋を満たす。
窓辺から春風が吹き込み、カーテンが揺れる。
やがて窓が閉まり、心地よい暗がりが部屋を包んだ。
冬は眠り、春が訪れた。
季節は巡る。
やがて夏が訪れると、春は旅に出る。
秋になると、また、冬のもとへ戻ってくる。
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