経理担当者だけが「会社の経理」を知っている状態、大丈夫ですか? 税理士が考える“属人化しない経理”のつくり方
「経理のことは、○○さんに聞けば分かる」
中小企業では、こうした会社も少なくありません。
長年働いている経理担当者がいて、請求書の処理から振込、会計ソフトへの入力、税理士とのやり取りまで、すべて把握してくれている。
経営者からすれば、とても頼りになる存在です。
でも、ここで一つ考えてみてほしいことがあります。
もし、その担当者が明日から会社に来られなくなったら、経理はそのまま回るでしょうか?
「どの請求書を、いつ支払うのか分からない」
「必要なデータがどこに保存されているのか分からない」
「会計ソフトへの入力方法が、その人独自のやり方になっている」
「税理士と何をやり取りしていたのか、社長が把握していない」
もし一つでも思い当たるなら、経理が少しずつ「人に依存する状態」になっているかもしれません。
今回は、税理士として中小企業の経理を見てきた立場から、
「属人化しない経理」とはどんな状態なのか。
そして、そこにAIをどう活用できるのか?
を考えてみたいと思います。
「その人が優秀だから大丈夫」と「仕組みとして大丈夫」は違う
私は、経理の属人化という話をするときに、経理担当者個人の能力の問題として考えないことが大切だと思っています。
むしろ、長年一つの会社で経理を担当している方ほど、会社独自のルールや取引先との関係、毎月の細かな処理まで熟知しています。
だからこそ、仕事がその人に集まっていきます。
「これは○○さんに聞けば分かる」
「○○さんに任せておけば大丈夫」
そうして少しずつ、会社として管理していたはずの業務が、担当者個人の頭の中へ移っていきます。
問題は、担当者が優秀かどうかではありません。
その人がいなくても、会社として経理業務を把握できる状態になっているか。
ここがとても重要なのです。
私が実際の現場で感じてきた「任せきり」の怖さ
税理士として会社の経理を見ていると、経営者が長年の経理担当者を信頼し、かなりの部分を任せているケースがあります。
信頼すること自体が悪いわけではありません。
ただ、
「信頼して任せること」と「会社として把握しなくていいこと」は別
だと私は考えています。
実際に私が関わったケースでも、経理担当者と税理士の間だけでやり取りが完結し、経営者から経理の中身が見えにくくなっていた会社がありました。
また、長く担当している人ほど、その人しか分からない業務が増えていき、
「本当は体制を変えた方がいいと思っている。でも、この人がいなくなったら経理が回らない」
という状態になることもあります。
これは経理担当者だけの問題ではありません。
会社の経理を、会社として管理できる仕組みになっているかどうか。
経営者側も考えておく必要がある問題です。

「マニュアルを作れば解決」でもありません
では、マニュアルを作れば属人化は解消するのでしょうか。
もちろん、マニュアルはとても重要です。
ただ、一度マニュアルを作って終わりでは、また少しずつ実際の業務とのズレが生まれていきます。
新しい取引先が増えた。
使っているシステムが変わった。
請求書の処理方法が変わった。
担当者自身が、もっと効率的なやり方に変えた。
経理は日々少しずつ変化します。
そのたびに分厚いマニュアルを人の手で修正するとなれば、結局、
「忙しいから、あとで直そう」
となりやすい。
だから私が目指したいのは、
単に「マニュアルがある会社」ではありません。
業務が変わったら、その変化を会社の仕組みに反映できる状態です。
そこでAIを使って「会社の経理」を見える形にする
ここで、AIが役に立つと考えています。
といっても、AIに経理を全部任せるという話ではありません。
私が考えているのは、
経理担当者の頭の中にある業務を、AIも活用しながら見える形にしておく
という使い方です。
たとえば、普段担当者が行っている作業をメモや箇条書きにして整理する。
「毎月いつ、何をしているのか」
「どの資料を使うのか」
「どこを確認しているのか」
「どんなときに注意が必要なのか」
こうした情報を整理する際にAIを使えば、バラバラになっている情報から、業務フローや手順書の土台を作ることができます。
AIに経理を任せるのではなく、
AIを使って“人しか分からない経理”を減らしていく。
担当者の頭の中にしかなかった「暗黙知」を、会社で共有できる「情報」に変えていくイメージです。

もちろん、AIが作ったマニュアルをそのまま正しいものとして使うのではありません。
実際の社内ルールと合っているか、人が確認する必要があります。
また、機密情報や個人情報をAIへ入力する際には、利用するサービスの設定やルールを確認し、入力する情報の扱いにも注意が必要です。
AIは判断する責任者ではなく、
経理を「見える状態」にしていくための補助役。
私は、そのくらいの距離感がちょうどいいと思っています。
目指したいのは「誰でもいいから採用する必要がない会社」
経理担当者が突然辞める。
会社としては当然、後任を探します。
でも、経理が完全に属人化していると、
「とにかく早く誰かを採用しないと困る」
という状態になります。
私は、この状態を変えたいと思っています。
会社の経理業務が整理され、手順が見えるようになっていれば、新しく入った人も仕事を理解しやすくなります。
そして、AIやマニュアル、税理士など、担当者以外にも業務を把握するための仕組みがあれば、一人にすべてを背負わせる必要もなくなります。
私が目指しているのは、
「誰でもいいから、とにかく経理担当者を採用しないと困る会社」ではなく、本当に信頼できる人に仕事を任せられる会社です。
そのためにAIを使う。
AIで人を減らすのではなく、
人に依存しすぎない仕組みをつくるためにAIを使う。
これが、私が考えている「AI×経理」の一つの形です。

まずは「担当者しか知らないこと」を3つ書き出してみる
いきなり会社の経理をすべて仕組み化する必要はありません。
まずは、経営者自身にこんな質問をしてみてください。
「今の経理担当者しか知らないことは何だろう?」
たとえば、
毎月の振込スケジュール
会計ソフトへの入力ルール
請求書や領収書の保存場所
税理士へ渡している資料
各システムの操作方法
月末・月初に行っている作業
この中から、まず3つだけでも構いません。
書き出してみると、
「これは自分も知らなかった」
「この作業はマニュアルがない」
「この人が休んだら、誰もできない」
というものが見えてくるはずです。
属人化をなくす第一歩は、AIを導入することではありません。
まず、「今、何が人に依存しているのか」を見えるようにすることです。
そのうえで、AIに任せられる整理やマニュアル作成を少しずつ取り入れていく。
それだけでも、「担当者がいなければ止まる経理」から「仕組みで回る経理」へ、一歩進めると思います。
経理を「人に任せる」から「会社で持つ」へ
経理担当者を信頼する。
そのことと、会社として経理を把握することは両立できます。
むしろ、業務を見える化し、手順を整理しておくことは、担当者本人の負担を減らすことにもつながります。
何でも一人で覚えておく必要がない。
休んでも仕事が止まらない。
新しい人に、毎回ゼロから教えなくてもいい。
AIを活用する目的は、経理担当者を不要にすることではありません。
担当者一人に依存しなくても、会社として経理が回る状態をつくること。
そして、人は確認や判断、コミュニケーションなど、人だからこそ価値を発揮できる仕事に時間を使う。
そんな経理体制を、中小企業でも少しずつ作っていけると私は考えています。
「うちの経理は、どのくらい人に依存しているんだろう?」
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著者プロフィール
赤松祐光(あかまつゆみ)|AI×経理効率化【税理士】
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