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ショートショート|同じ場所🗼違う時間⌛️

こんばんは、みきです❤️

今日は東京タワーを舞台にしたショートショート|
同じ場所🗼違う時間⌛️
をお送りします。




仕事でつらい時、私は東京タワーを見に行く

そこに何かがあるわけではない

少し離れた場所に立って、ただ眺める

それだけ

今日も、気づけばここに来ていた

会社を出る時には、家に帰るつもりだった

明日の朝も早いし、鞄の中には持ち帰った

仕事が残っている

それなのに足は、家とは違う方向へ向かっていた

ビルの隙間から、赤い鉄骨が見える

その姿を見つけた瞬間、張りつめていたものが少しだけ緩んだ

私は立ち止まり、息を吐いた

「……疲れた」

いつからだろう

毎日をこなすだけで

一日が終わるようになったのは


 



前はもっと、明日を楽しみにしていた

今は、明日が来ても、今日の続きが始まるだけ

私は東京タワーを見上げた

赤い光が、夜の中に静かに立っている

それでも、しんどくなるとここへ来てしまう

「どうしてなんだろうね」

答える人はいない

その時、視界の端に誰かが立っているのが
見えた

十歳くらいの女の子だった

薄暗い空き地のような場所に
ひとりで立っている

くすんだ色の上着
太い布地のもんぺ
土に汚れた草履

撮影でもしているのだろうか

そう思って周囲を見回したけれど
カメラもスタッフもいなかった

女の子は、こちらを見ていなかった

私と同じように、東京タワーのある方向を
見つめていた

けれど、その顔には憧れも喜びもなかった

怒っているように見えた

女の子の唇が、ゆっくり動いた

車の音にかき消され、声は聞こえなかった

それでもなぜか、何を言ったのか分かった

――そんなものを建てて、何になるの



次の瞬間、強い風が吹いた

思わず目を閉じる

もう一度そこを見た時

女の子の姿は消えていた

ただ、東京タワーだけが変わらずに立っていた

まるで、何も見ていなかったかのように

女の子がいた場所を、しばらく見つめた



ふと、思った

昔はもっと、楽しかった

何が。。。とはうまく言えない

ただ、明日を待つ気持ちがあった



次の日も、その次の日も、
私は彼女のことを思い出した

もんぺ姿の女の子

怒ったような顔

「そんなものを建てて、何になるの」

もちろん、見間違いだと思った

疲れていたのだ

そう思うことにした



一週間後、私はまた東京タワーの近くにいた

自分でも呆れる

帰ればいいのに

でも、なぜか来てしまう

その日は雨上がりだった

濡れた路面に、東京タワーの
赤い光が揺れている

そして、その向こうに

あの女の子がいた

前より近かった

今度は、彼女もこちらを見ていた

目が合った

その瞬間、街の音が消えた

車も、話し声も、信号の電子音も

全部

代わりに聞こえたのは、風の音だった

強い、土っぽい風

目の前から、ビルが消えていた

道路も、街灯もない

広がっているのは、土と瓦礫

黒く焼けた柱

崩れた塀


 



遠くで、誰かが何かを運んでいる

私は息をのんだ

女の子が立っていた

今度は、はっきりと

「……あなた、誰」

少女が言った

「それは、こっちの台詞なんだけど」

声が震えた

少女は私の後ろを見た

そこには、東京タワーがあった

赤く、まっすぐに、夜空へ伸びている

少女は目を見開いた

「……あれ、なに」

「東京タワー」

「とうきょう……たわー?」

私はうなずいた

少女はしばらく塔を見上げていた

やがて、ぽつりと言った。

「ここに、そんなものが建つの」

「うん」

少女の顔が歪んだ

「いらない」

その言葉は、思ったより強かった

「そんなもの、いらない」

少女は拳を握った

「みんな、未来だ、復興だって言う」

声が震えていた

「でも、そんなのどうでもいい」

私は何も言えなかった

少女は地面を見た

「家もない」

少し間を置いて、

「お母ちゃんも、お父ちゃんも、弟もいない」

風が吹いた

少女は唇を噛んだ

「返してほしいだけなのに!」

胸の奥が、ぎゅっと痛んだ

私は何を言えばいいのか分からなかった

大丈夫なんて、言えなかった

未来は明るいよ、なんて言えるはずもなかった

しばらくして、少女が私の顔をじっと見た

「なんで、そんな顔してんの?」

「え?」

「泣きそうな顔」


 



私は少し目をそらした

「……自分でも、よく分からない」

少女は黙った

それから、私の鞄や服を見て
もう一度顔を見た

「帰るところ、あるんでしょ?」

「え?。。。。一応あるけど」

「じゃあ、帰ればいいじゃん」

その言葉に、私は何も返せなかった

帰る場所はある

電気のつく部屋も、眠るベッドもある

それなのに、私は何もないような顔をしていた

少女は私を責めるでもなく、

また東京タワーを見上げた

「ほんとに、ここに建つんだね」

「建つよ」

「こんなに大きいのが?」

「うん」

「ずっとある?」

「たぶん、あなたが思ってるより、ずっと長く」

少女は黙って塔を見ていた

赤い光が、その横顔を照らしている

「そっか」

それだけだった

でも、その声からは、
さっきまでの怒りがほんの少しだけ消えていた

私は言った。

「私ね、しんどくなると、ここに来るんだ」

少女がこちらを見た

「これを見ると、少しだけ息ができる」

「なんで?」

「分からない」

少女はしばらく考えて、それから小さく言った

「変なの」

思わず笑った

少女も少しだけ笑った

そしてまた、二人で東京タワーを見た

同じ場所で

違う時間から

少女には、まだない塔が見えていた

私には、もうなくなった景色が見えていた

しばらくして、風が吹いた

景色が揺れた

「待って」

私は手を伸ばした

少女も手を伸ばした

でも、指先は触れなかった

焼け跡が滲み、遠ざかっていく

ビルの灯りが戻る

車の音

信号

人の声

気がつけば、私は一人で立っていた

東京タワーは、
何事もなかったようにそこにあった



翌朝

通勤電車の中で、

昨夜撮った東京タワーの写真を開いた

その一枚を見て、指が止まった

水たまりの向こう

小さく、女の子が写っていた

もんぺ姿で、こちらを見ている

私はしばらくその写真を見ていた

そして、窓の外へ目を向けた

今日も仕事はある

昨日と同じ電車

同じ時間

きっと、嫌になることだってある

それでも

帰る場所がある

明日が来る

何もない場所にも、いつか塔は建つ

そう思ったら、ほんの少しだけ

今日の続きの向こうを、

見てみてもいい気がした


 

あとがき

この物語は、
東京タワーが戦後復興の象徴として
建てられたことを知った時に、
ふと浮かんできました。

私は元々東京タワーが好きで、職場も
近かったことから、よく寄り道をしていました

復興の象徴として建てられた東京タワー🗼

でも、その頃を生きていた人達全てが
同じように「未来」や「希望」を
感じていたわけでは
なかったかもしれない

大切なものを失った人にとっては、
未来よりもまず「返してほしい」と思うものが
あったんじゃないか

そんなことを考えていたら、
戦後を生きる少女と、現代を生きる女性が
同じ場所で違う時間を見ている物語が
浮かんできました

今回使用した画像は、
あくまでも物語のために作ったイメージです
実際の東京タワー建設当時の景色を再現したものではありません

焼け野原と現代の東京を重ねたのも、
二人の生きる時間の隔たりを表現するための
ものです

同じ場所でも、そこに立つ人によって
見えている景色は違う

そんなことを想像しながら読んでもらえたら
嬉しいです

最後までお読み頂き
ありがとうございました❤️


東京タワーを題材にした
以前投稿した
ショートショートはこちら



ありがとうございました❤️


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