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本庄保険金殺人事件と「完全自白 愛の地獄」

またしても、本庄保険金殺人事件である。

本書は、八木の愛人であり、
事件の共犯者でもある
武まゆみによる“自白本”である。

※八木と20年来の知り合いが
書いた本については、
下記記事で紹介している。
本庄保険金殺人事件と『虫けら以下』|犯罪古書店

武まゆみ。
彼女を昔から知る人物は、こう語る。

武 まゆみ

「八木と出会わなければ、
 普通に結婚し、
 普通の主婦になっていたはずだ」と。

また、彼女を取り調べた警察関係者も、
同様の趣旨の発言をしていたとされている。

本書の冒頭では、
主犯である八木が犯行を否認していること、
そして著者である武まゆみ自身も、
まだ刑が確定していない段階で執筆していること
それ故に、この手記の内容が
証拠として扱われる可能性についても
明記されている。

タイトルの通り、
まさに武まゆみによる
“自白の記録”といえる一冊である。


妙に読みやすい本だった

私が女性だからだろうか、
文章がとても読みやすかった。
武まゆみ自身も本書の中で
「嘘偽りない気持ちを書いた」と述べているが、
確かに彼女の心の動きが、
驚くほど素直に伝わってくる。


八木との出会い

武は6歳のとき、近所に引っ越してきた
八木一家と家族ぐるみの付き合いを始める。
八木にはすでに妻子がいた。

16歳になると、
八木が経営するスナックで働くようになり、
そのまま関係を持ち、愛人の一人となっていく。
八木には常に複数の愛人がおり、
そのほとんどは
同じスナックの女性たちだった。

武は八木に「嫉妬する女は嫌いだ」
と言われていたことから、
本心では激しく嫉妬しながらも、
それを押し殺して日々を送っていた。
本書には、八木の好物を一生懸命作り、
できるだけ自宅に来てもらえるよう
努力していた様子が綴られている。
“他の愛人に負けたくなかった”という、
あまりに普通の感情が痛いほど伝わってくる。


“特別な存在でいたい”という歪んだ願い

武が、ほかの愛人たちよりも
深く犯罪に手を染めてしまった理由も
語られている。

八木に、
【これはマミ(武の愛称)と俺だけの秘密だ】
と言われたからだという。

自分が断れば、
八木は他の愛人と実行してしまう。
それだけは絶対に嫌だった。
“自分が一番でいたい”――その一心だった。

逮捕された後も、武は八木を深く愛しており、
「八木の有罪の証拠にはなりたくない」
という思いが非常に強かったという。

最終的には、
実父の言葉などがきっかけで
自白に至るのだが、
武が自白したことを知った八木から
届いた手紙には、
こんな言葉が並んでいた。
「おまえが自白を続けるかぎり、
俺との愛情は溶けてなくなるぞ」
「マミが一人でやったと言え。
 そしたら俺はマミを待っていて、
 出てきたら結婚してやる」

この手紙を受け取った武は、
それでもなお
「このままだと八木を失ってしまう」
「八木を失う=自分の死と同じ」

というほど追い詰められた
精神状態にあった。

その結果、八木に
警察に脅迫されて自白したかのような
「本心ではない手紙」を武は書いてしまう。
しかし手紙を出した直後、
彼女は激しい自己嫌悪に陥る。

そんな中、実の妹から一通の手紙が届く。
「八木の言うことは絶対に聞くな。
聞くなら家族の縁を切る。」

この手紙を読んだ武は、
改めて八木の手紙を読み返す。
そしてようやく、長い呪縛がほどけるように、
八木との関係について
“目が覚める”瞬間を迎えたのだ。


感想

誰かに依存することは苦しくもあり、
同時に“楽”でもある。
なぜなら、
その人の言うことだけを聞いていれば、
世界が成り立ってしまうからだ。
武はまさに八木に依存していたのだろう。
その感覚は、理解できなくもない。

ただ、
どうしても理解できない点が一つある。

最初の殺人の後、
武は八木から約束されていた報酬
――5000万円――
を一切受け取っていないのだ。
それどころか、
スナックのツケなどの負債を、
逆に背負わされていたほどである。

ここで普通なら気づくはずだ。
「あまりにも都合よく使われすぎている」と。
私なら、この段階で目が覚めるだろうと思った。

そう考えると、彼女は本当に盲目的で、
純粋だったのかもしれない。
いや、既に殺人を犯してしまった以上、
後戻りできなかったのだろうか。
もしこの時点で彼女が警察に駆け込んでいたら、
第二の殺人は防げたかもしれない。
そして武自身も、
無期懲役にはならなかったのではないか――
そんなことを考えてしまう。

八木の最も近くにいて、
犯行を共にした彼女だからこそ
描ける視点が本書には多くある。
本庄保険金殺人事件を深く知りたい人には、
間違いなくおすすめできる一冊だ。

同時にこれは、
一人の男に振り回され、
重罪へと転落していった女性の
“人生の記録”でもある。
興味のある方は、ぜひ読んでみてほしい。

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