この本は嫌いだ――『好きだったあなた 殺すしかなかった私』
第一印象「微妙な本」
なかなか惹かれるタイトルである。
表紙のイラストも悪くない。
思わず手に取ってみたくなる一冊だ。
だが――同時に、
なんとなく嫌な予感もしていた。
というのも、この本を書いたのが
『殺み家』を編集していた
高木瑞穂氏だったからだ。
前紹介した記事でも触れたが、
私は高木氏の本に対して
少々複雑な感想を持っている。
↓こちらで紹介
事件は興味深い。 でも正直おすすめしづらい犯罪ノンフィクション①|犯罪古書店
※名前、本の内容からして、
てっきり女性だと思っていたが男性だった。
思い込みとは恐ろしい。
私にも「このような題材を扱う=女性」
という偏見があったのだと思う。
前回あまり好きになれなかった理由は、
既に報道されている事実が中心で、
新しい発見がほとんどなかったこと。
そして何より、
“事件を強く煽るタイプの雑誌”に
近い印象を受けたからだった。
今回も同じ路線だったら
途中でギブアップかな――。
そんなことを思いながら読み進めた。
そして結論から言うと、
嫌な予感はだいたい当たっていた。
しかも今回は、
前回とはまた別の意味で
嫌な読後感が残ることになった。
細かな事件、 三面記事
ただ、『殺み家』と違い、
こちらは知らない事件が多かった。
恐らく、あえて細かな事件を集めたのだろう。
新聞でいうところの三面記事。
一瞬ニュースで報じられても、
すぐに人々の記憶から
消えてしまうような事件である。
そんな事件が32件紹介されていた。
語弊があるかもしれないが、
それらを知ること自体は面白かった。
少し脚色すれば、
昔のサスペンスドラマや
『世にも奇妙な物語』に
出てきそうな話もある。
そして同時に、
犯罪ですら運に左右されるのだな、
と感じた。
繰り返すが、
本書で扱われているのは有名事件ではない。
なぜ有名にならなかったのか。
単純に、大きく報道されなかったからである。
理由はいくつも考えられる。
・同時期にもっと大きな事件が起きていた
・大きな芸能ニュースに埋もれた
・ありふれた事件で話題性に欠けた
・関係者に有力者がいて報道が抑えられた
などなど
実際のところは分からない。
だが、少なくとも加害者側にとっては、
大きく報道されないに越したことはないだろう。
ただ、本書には少し首を傾げる部分もあった。
タイトルは
『好きだったあなた 殺すしかなかった私』で
ある。
当然、殺人事件ばかりを扱っているのかと
思っていた。
ところが後半になると、
殺人事件ではないものまで登場する。
読んでいて、「あれ?」と思った。
タイトルと内容が徐々にズレていくのである。
まるでページ数を埋めるために、
無理やり事件を追加したような印象を受けた。
ここでも少し残念な気持ちになった。
嫌悪感しか覚えなかった筆者の言葉
もっとも、ここまでは
「うーん……」という程度の感想だった。
だが、ある一文を読んだ瞬間、
この本が一気に嫌いになった。
不倫絡みの殺人事件について、
筆者はこう書いている。
「この事件を知ったとき、
私は込み上げる笑いを抑えきれなかった」
これを読んだとき、私は非常に不愉快だった。
殺人事件である以上、被害者がいる。

「あほらしい」
「バカらしい」
「被害者にも落ち度がある」
そういう感想なら、まだ理解できる。
しかし、
「込み上げる笑いを抑えきれなかった」
という表現には強い違和感を覚えた。
もし私が被害者の遺族だったら、
この文章を書いた人間に怒りを覚えると思う。
被害者を嘲笑う権利が、
果たして誰にあるのだろうか。
本書では被害者も加害者も仮名になっている。
だが、読む人が読めば、
どの事件か分かるものも少なくない。
そうした事件に対して、
よくそんな感想を書けるものだと思った。
この一文を読んだ時点で、
不快感しか残らなくなり、
以降は正直、斜め読みになってしまった。
そして妙に納得した
その後、改めて本を見返してみた。
著者名の横には、
「事件備忘録@中の人」と
記載されている。
調べてみると、
どうやらnoteで公開している記事を
まとめたものらしかった。
こちらは女性が書いているものが
メインらしい。
実際に記事を一つ読んでみたが、
本書とほぼ同じ内容で、
途中から有料記事になっていた。
なるほど――。
だからこういう内容なのか。
ただ、著者の自己紹介には、
「可能な限り裁判傍聴にも足を運んでいる」
と書かれていた。
本当にそうなのだろうか。
私は時々裁判を傍聴する。
もちろん事件内容は様々だ。
だが、殺人事件の裁判を見ていて、
「込み上げる笑いを抑えきれなかった」
などという感想は、とても書けないと思う。
法廷には、被害者遺族がいることもある。
証言を聞けば、
その苦しみや悲しみの一端が伝わってくる。
それを見聞きしてなお、
そんな言葉が出てくるものだろうか。
※この事件そのものを傍聴してなくても、だ。
殺人事件の裁判で
笑いが込み上げることはない。
そこがどうしても理解できなかった。
大手出版社の凄さ
やはり素人とプロの差なのだろうか。
この本を読んで、
改めて大手出版社の凄さを感じた。
例えば新潮社の事件ノンフィクション。
もちろん当たり外れはある。
だが、少なくとも私が読んできた作品は、
比較するのが失礼なくらい
読み応えのあるものが多かった。
事件そのものだけではなく、
その背景や人間の心理、
被害者や遺族が抱えるものまで
丁寧に描かれている。
だからこそ、読後に何かが残る。
この本には、それがなかった。
そして何より、あの一文を読んだ瞬間、
私はこの本を好きになれなくなってしまった。
