【おとぎ草子】向日葵は頷いた
―動けないからこそ、見える景色がある。
田んぼが広がる一角に、
七本の向日葵が並んでいる。
緑の帯が幾重にも重なる田んぼの中で、
空に向かって並んでいる向日葵は、
すぐ目に留まる。
それにあの色だ。
日焼けした顔に、
黄色い花びらを纏っている。
うだるような暑さの中で
黄色が揺れている。
土と水と草の匂いが、
小さな風に乗って流れていく。
その風の小さな音に混じって
先程から、
お日様の方をむいたまま、
向日葵たちがひそひそ話をしている。
「暑いわね。やってられないわ」
「何言ってんの。私たち、夏の象徴でしょ」
「わかってるわよ、そんなこと。だけど、こんな暑さが続いたら枯れちゃうかも」
風が吹き抜ける。
身体を少し震わせる。
「それにしても人間の子ども、元気よねぇ」
「さっき四、五人、走って行ったわよね」
「背中のランドセルが大きく揺れていた。疲れ知らずだわ」
「この間、一人の子が私を見上げて『どんどん大きくなってね』だって」
「これ以上大きくなったらどうなるのよ」
「お日様に届くかもね」
「焼かれちゃうわ」
「あの子もそのうち大きくなるわ」
「首垂れなきゃいいけど……」
「まぁ、ずっとあのままで居てほしいわよね」
遠くで電車が通り過ぎていく。
風がその音を運んでくる。
銀色の車体がキラキラしている。
「毎日、あーやってどこかに行ってるのよねぇ」
「大変だよね」
「でも、私たちはここでこうやってお日様ばかり眺めている。どこか遠くにと思うけど動けるわけないしね……」
「でも、それがいいのかもよ」
「そうかしら」
「きっとそう」
「同じ場所でずっと見続けている……。それも楽しいわよ」
「咲いては枯れて、咲いては枯れて。ずっと続くものを見つめる。私たちにしかできないでしょ」
逆方向に電車が走ってくる。
まだ見たことのない街へ続いている。
電車が小さくなっていく。
山の稜線の向こうに消えていく。
空が青から赤くなる。
陽の光がオレンジ色に変わっていく。
少しだけ涼しい風が、吹いてくる。
「あ、おじいちゃん、来たようね」
手に鎌をもった老人が、
夕陽を背にしてゆっくりと歩いてくる。
長い影が付いてくる。
立ち止まる。
手を後ろに組む。
田んぼをゆっくりと見渡す。
フンと一つ鼻をならす。
「なんか皺がひどくなってきてない?」
「そうかしら」
「絶対、そう」
「秋にはおいしいお米ができるといいわよね」
「あー秋ももうすぐか……。私たちには関係ないけど」
「なんで?」
「その頃には、もう終わってるもの」
「終わる? 何言ってんの。続けるために終わるのよ。そして始まる」
「来年は、もっと暑いかも……」
「きっと、そうね」
老人がそっと向日葵に触れる。
そして大きく息をした。
ふうっ。
それに答えるように、
向日葵は、小さく頷いた。
夕刻の優しい風が、
そっと吹き抜けた。
