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第1話『家族葬なんて許さない』

-父が最後に家族を守った言葉-
――ここからは、別の家族のお話です。

「親父は、派手なことが嫌いだったからさ」
通夜の段取りを話し合うリビングで、僕は言った。
父が亡くなってから、まだ12時間。
悲しむ間もないまま、葬儀社との打ち合わせや親戚への連絡など、決めなければならないことばかりが増えていく。

「家族だけで、静かに送ってやりたいんだ」
そう言ったときだった。
父の妹、節子叔母さんが声を上げた。
「何を言ってるの。兄さんは町内会長を長く務めた人なのよ。家族だけで済ませるなんて。親戚やご近所にも声をかけて、ちゃんとお見送りしなきゃ」

さらに言葉が続いた。
「残されたあなたたちが、あとで何を言われるか分からないのよ」

叔母さんなりに、父のことを思っているのだろう。それは分かる。
でも、疲れ切った僕と母には、その言葉に向き合うだけの力が残っていなかった。

このまま一般葬になるのかな。
そう思ったとき、ふと父の書斎にあったエンディングノートを思い出した。

革張りの表紙を開き、ページをめくる。
最後の方に、父の不器用な字が残っていた。

『自分の葬儀は、家族と本当に親しい人だけで静かに送ってほしい。それが私の一番の望みです』

僕は、そのページを叔母さんの前に置いた。
叔母さんは黙って何度か読み返した。
そして、小さく息を吐いた。
「……兄さんが、そう書いてるなら」
それ以上は何も言わなかった。

線香の煙が細く揺れる小さな部屋で、僕たちは父を静かに送った。
帰り際、叔母さんは父の遺影をしばらく見ていた。
「兄さんらしいわね」
そう言って帰っていった。

※このストーリーは、実際の相談や実務で起こり得る事例をもとに、人物・経緯を再構成したフィクションです。

📝 ワンポイントコラム
-「家族葬にしてほしい」と書いておけば、そのとおりになる?-
「自分の葬儀は、家族だけで静かにしてほしい」
そう考えている方は少なくありません。

では、その希望をエンディングノートに書いておけば、家族は必ずそのとおりにしなければならないのでしょうか。

葬儀の形式や規模について書いた希望は、それだけで家族を拘束するものではありません。

それでも、書き残しておく意味はあります。

葬儀の直前、家族にはゆっくり考える時間がほとんどありません。
一般葬にするのか、家族葬にするのか。
誰に来てもらうのか。
親族から違う意見が出たらどうするのか。

そんなときに家族が知りたいのは、
「本人は、どうしてほしかったのだろう」
ということです。

そこで、家族葬を希望するなら「家族葬にしてほしい」だけではなく、なぜ、そうしてほしいのかまで残しておくことをおすすめします。

「身内と親しい人だけで静かに送ってほしい」
「家族に大きな負担をかけたくない」

理由が分かれば、希望どおりにできない事情があったとしても、家族は本人の気持ちを考えながら判断できます。

できれば、生前に一度家族へ話しておくとよいでしょう。

自分がいなくなったあと、家族が迷ったときの判断材料を残しておく。
葬儀について書き残す意味は、そこにもあります。



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