夜店から【BL】 #シロクマ文芸部
夜店から漂う香りの重なりに、腹の虫が刺激される。
グゥウ………と鳴ったその虫はいったいどの匂いに反応したのか。
「っはは、どれ食いたいんだ?」
隣の、頭ひとつ分上から落ちてきた声に恥ずかしくなって思わず顔を手で覆う。
だけどその指の間には見て明らかな隙間。
ソースや肉や海鮮が焦げる匂い、バターが溶ける匂いに飴やチョコが絡まる匂い。
全部が嗅覚に魅力的で、ついつい脳内で品定めが行われてしまう。
どれもこれも僕にははじめての刺激で、その雑多な匂いのハーモニーが優先順位を狂わせる。
しょっぱい匂いも、甘い匂いも魅惑的。
カランコロンと石畳を履き慣れない下駄で歩きながらあっちへこっちへと視線が彷徨う。
僕がコレだというものを決め兼ねている様子に気付いたのだろう。彼は過保護な保護者さながら。
「取り敢えず目についたもん全部教えろ」
お前が残しても全部俺が食ってやるから、と肩を揺らす年長者の何たる頼もしいことか。
たこ焼き、イカ焼き、じゃがバターにとんぺい焼き。それと綿あめにりんご飴。
どれも知っている味と違う美味しさを感じたのは、恐らく雰囲気に酔っていたからだろう。
はじめてみる鮎の姿焼きを見付けて大はしゃぎしたからか。
まずひとつめは、それを買ってもらった。
小骨が口の中に、喉の粘膜にチクチクと刺さるがそれもまた夜店の醍醐味に違いない。
ただ、一番の刺激は嗅覚にではなく小さなプールに浮かぶヨーヨーだった。
アレ、良いな……と。
そう零しながら落としててしまった陶酔の溜息が落ちたのは、ヨーヨー釣りだった。
幼い頃に憧れた縁日のヨーヨー釣り。
それから視線を外せないでいると、隣頭ひとつ分上から笑う声。
「やるか?」
その声に頷き、わたあめもりんご飴も彼の手に持たせて簡易的なビニールプールくの前にしゃがみ込む。
ヨーヨー釣りの結果は二勝一敗。
初めてにしちゃあ戦果は上々じゃねーかと肩を肘で小突かれて、反射的に嬉しさと照れ臭さでどんな顔をしたら良いか判らなくなった僕は、ふたつ取ったヨーヨーの片方を彼の指に引っ掛けた。
十七歳にしてこの日初めてお祭りの夜店を巡ったけれど。
僕やお祭りの夜店が大好きになった。
その理由の大半は、『彼』が一緒に歩いてくれたから、なのだろうけれども。
