デートのあとで
三連休の真ん中の日、僕は新大久保で待ち合わせをしていた。
彼女から「電車が遅延していて遅れます」と連絡が入り、僕はあてもなく街を歩いた。
新大久保は久しぶりだった。韓国だけじゃなく、中国やインド、いろんな国の人が行き交っている。夜の街灯に照らされながら、人々はそれぞれの目的に向かって歩いていた。
「そろそろ着きそうです」と連絡が来て、僕は券売機の前で立ち止まり、周囲を見渡していた。女性ばかりで、少し居心地が悪かった。
やがて彼女が僕を見つけ、軽く会釈をして合流した。春の夜は思ったより冷えていて、風が少しだけ頬に刺さった。
彼女は共通の知り合いの紹介で知り合った人だった。初対面。
美人というより、笑うと目尻に皺が寄る、柔らかい印象の人だった。
人混みを掻き分けながら、彼女が何度か行ったことのある店に入った。僕は完全に彼女に身を任せて、サムギョプサルを頼んだ。
LINEではよく会話が続いていた。少し自信もあった。
でも、いざ対面すると緊張がボディブローのようにじわじわ効いてくる。お互いにどこかぎこちなく、不自然だった。
席に着いて、肉が焼き上がるまで、LINEの延長のような会話をした。話自体は続いていたと思う。でも、どこかテンポが合わなかった。
ふとした瞬間、少し気まずい空気が流れた。僕は笑ってみたけれど、彼女は何かを探すように視線を泳がせていた。
そのとき、僕たちの距離は、同じテーブルにいるはずなのに、どこか遠かった。
普段は食事を残さないのに、その日は少しだけ残してしまった。疲れと満腹が重なっていたのかもしれない。
帰り道、方向が同じだったので一緒に帰ることになった。隣同士で座りながら、僕は会話を繋ぎ続けた。気まずくなるのが嫌だったからだ。
彼女もまた、それに応えてくれていたと思う。
「今日はありがとうございました。また会いましょう」
そう言って別れた。
楽しかったはずなのに、どこか引っかかる。
サンチュが歯に挟まったような、どうにも取れない違和感。
まるで何か悪いことをしたかのような、理由のない罪悪感。
春の夜空みたいに、星のない暗さが胸に広がっていた。
その後、連絡は来なかった。たまにスタンプがつく程度だった。
宙ぶらりんな気持ちだけが残った。
切りたいなら、いっそ切ってくれればいいのに。
この状態から抜け出すのに、三日ほどかかった。
昔はもっと簡単に切り替えられたのに、今回は違った。
体は健康なのに、中身だけがぐちゃぐちゃに引き裂かれているようだった。何をしても晴れず、同時にやっていたこともうまくいかなかった。
自分は駄目だな、と思った。
救ってくれたのは音楽だった。
Mrs. GREEN APPLEの「君を知らない」。
僕は、LINEの会話だけで相手を分かった気になっていたのかもしれない。彼女も同じだったのかもしれない。
でも、実際に会ってみると、その距離感の違いに追いつけなかった。
気づけば、大きな森の中で、互いに離れていった。
もう一つ、わかったことがある。
自分を認めないままだと、その森から抜け出せなくなるということだ。
「自分はもっとできたはずだ」
そう思えば思うほど、深く沈んでいく。
でも僕は、合わないと感じながらも、ちゃんと向き合った。
無理をしてでも、関係を繋ごうとした。
それは、ちゃんとやったと言っていいことだと思う。
彼女とは深く繋がれなかった。
でも、楽しかった。
この事実は、変わらない。
合わないことは、悪いことじゃない。
ただ、違っただけだ。
それでもやっぱり、どこかで思ってしまう。
ぴったりと合う人なんて、本当にいるのだろうか、と。
冬を耐えた桜が、少しずつ咲き始めている。
僕の中でも、何かがようやく芽を出し始めていた。
