哲学でしかない子ども絵本『さかさま』の魅力 / 進撃の巨人に通ずる火の星と水の星の世界
とんでもない絵本を見つけたときの衝撃を書き残したいと思います。
※多少のネタバレあり。この本の魅力を語る上で欠かせない要素のため、何卒ご容赦ください…
ご紹介するのは、『さかさま 火の星と水の星』
さく・え は、TERUKOさん。Gakkenから2024年に発売されました。
子ども用の絵本としてできていますが、大人が読んでも非常に為になる。
何が正義で何が悪か。というかそもそも絶対的な正義と悪など存在しないのでは?
と考えさせられる点で、これはもはや絵本版『進撃の巨人』だと勝手に思っています。
(こちらは絵本なので、本編は10分もあれば読み終わります。ただその短いストーリーに散りばめられたメッセージ1つ1つが、それはそれは秀逸です)
⬛︎本自体のギミック
まず目につくのが表紙、上下対象になってできています。
この本は、上下さかさまにすることでまったく異なる物語(火の星のお話と水の星のお話)を読むことができます。そしてそれは対になっており、もう片方の物語に同時進行で影響していくのです。
このギミックがまず面白い。
ひとりで火の星を一気読み、その次に水の星を一気読みするも良し
ページ毎に火の星←→水の星と視点を変えて読むも良し
ふたりで向かい合わせに本を読み進めていくも良し
この仕掛けがシンプルに面白いし、ストーリーと相まって「ほんとよくできてるよなあ」と感心させられます。
⬛︎物語の妙
ではここから少しネタバレ要素のある物語について触れます。結論的なポイントを言ってしまうと、「良かれと思っている行動が時に誰かを傷つけてしまう」ということ。
火の星の住民は、みんな働き者でたくさん食べる。みんなの笑顔のために、薪をくべて生活しています。
水の星の住民は、知恵を使って色々なものを作り出すのが好き。みんなの笑顔のために、海の水を使っていろんな味のゼリーを試作しています。
この、“自分の星の住民が笑顔になるために行なっている営み”が、気付かない形で実はお互いの星の生活に干渉していく、という構造です。
しかもその干渉が、「相手が自分たちに嫌がらせをしてくる」と思ってしまうほどのレベルに達してしまうところが辛く、しかしながらリアルです。結果、両者は衝突してしまいます。
マーレもエルディアも、長い歴史の中で常にお互い正当性を訴えては衝突してきました。人類の8割を失いエレンの犠牲があって初めて両者は一時和解しましたが、同じ過ちを繰り返すような未来が暗示されてしまうのです。
『さかさま』の話に戻ります。
紛争の終盤は謎の病気が流行り、火の星にも水の星にも蔓延してしまいます。
星どうしの争いだけでなく、この謎の病気が流行るという展開。ここがものすごーく深い。
何故なら、この病気に効く薬を作るには火の星の資源と水の星の技術が必要だから。
火の星の住民は薬の存在を知ります。でもこれまで働くことしかしていなかったから作り方が分からない。
水の星の住民は薬の存在を知ります。でも星のどこを探しても、本に書いてある材料が見つからない。
つまりはお互いの理解や協力があれば薬を作ることができたというロジック、苦しいけどもあっぱれです。
⬛︎宗教的視点
あまり宗教には詳しくないので踏み込んだ話はしませんが、この本には「神さま」が出てきます。
火の星と水の星は本の上と下(上下は定まっているわけではありませんが)にあり、その真ん中に“金の星”という、お月様のようなオブジェクトがあります。
そのオブジェクトがいわゆる逆さ絵になっていて、火の星視点では“火の神さま”に、水の星視点では“知恵のライオン”に見えるのです。
これはほんと示唆的だなと感心したところで、それぞれの星で信仰している存在は、見る方向が違うだけで実は同じものだったということ。
これってめちゃくちゃモノの見方の本質じゃないですか!
この視点の違いが、物語では一方の勝手な解釈によってヘイトを募らせてしまうに至ります。
(水の星で水花火を打ち上げたとき、火の星では神さまが泣いてるように見えた、等)
いろんな視点で物事を見なければ本質を知ることができないー。子どもたちにもココを理解してほしいというメッセージをひしひしと感じます。「逆さ絵神さま」は、手法としてだいぶ秀逸じゃないかなと思いました。
⬛︎楽しい付加価値
と、深く読もうと思えばすごいスケール感で読める『さかさま』ですが、全体としては可愛らしい小人のような住民が描かれていますし、ページの大半は絵ですので、ライトに楽しめます。
さらに『さかさま改訂新版』限定なんだそうですが、「ウォーリーを探せ」的なちょっとしたゲーム要素も入っておりまして。
小さなお子さんは
「火の星にいるドラゴン“モア”の赤ちゃん」
や
「水の星にある魔法の本」
を探してみる、という遊び方だけでも楽しい絵本だと思います。
⬛︎答えはどこにも書いていない
長くなってきました、そろそろまとめです。
「じゃあ、どうすればよかったのか」と。
まさにこの本もそれを訴え、読者に考えさせて終わります。
(上の“探しものゲーム”の答えすら載せない一貫ぶり)
火の星の住民と水の星の住民が争うことなく平和に生活していくためにはー。私見ですが、私は、やはり対話しかなかったのかなと。
火の星の住民はある日、水の星から流れてくるにおいが気になります。
水の星の住民はある日、火の星から流れてくるけむりに違和感を覚えます。
この小さな現象のときにお互いが自分たちの営みを客観的に見て、「誰かにイヤな思いをさせてないかな」と考えることができれば、
「ちょっとうちでこういうの作ってるんだけど迷惑になってない?」
と話す機会ができたかもしれません。
「ここをこうしてくれればありがたいな」
とか
「これを発生させる頻度を下げるようにするね」
とか、穏やかで建設的な話し合いができたのではないかと。
実際、そんな簡単に解決する問題ではないと思いますが、お互い行動の意味を理解するだけでも、また違った価値観が生まれるんじゃないかと思うんです。
アルミンの一節を引用します。
「でも…こうやって一緒にいる僕達を見たらみんな知りたくなるはずだ。僕達の物語を。散々殺し合った者同士がどうしてパラディ島に現れ…平和を訴えるのか。僕達が見てきた物語 そのすべてを話そう…」
『さかさま』最後のページは「住民同士衝突しないで仲良く暮らすif世界」が扉絵いっぱいに描かれています(これほんと絵本として素晴らしい締め!)。
最高の絵本です
この本を読まれたみなさん、感想をコメントでいただけたら嬉しいです
