『 信号機 武道味 』
ある朝、道着姿の男が、
スクランブル交差点の信号機の隣に立った。
男は信号機を横目で見た。
赤で静止。
黄で構え。
青で正拳突き。
雨の日も、
雪の日も、
男は同じ動きを繰り返した。
最初は多くの人が足を止めた。
やがて、
誰も気にしなくなった。
一年が過ぎた。
男は信号機を見なくなった。
前だけを見て、
正拳突きを続けた。
さらに一年が過ぎた。
男は目を閉じた。
さらに数年が過ぎた。
男は耳を塞いだ。
何も見えない。
何も聞こえない。
それでも男は、
赤で止まり、
黄で構え、
青で拳を放った。
ある日。
男の動きが、
信号機と完全に重なった。
その頃には、男の足は
アスファルトに根を張っていた。
皮膚は鉄になっていた。
身体は空に向かって
真っ直ぐに伸びていた。
男の額に、
第三の目が開いた。
三つの目が順番に光り始めると、
隣の信号機は静かに消えた。
数年後。
一人の若い武道家が、
信号機になった男の隣に立った。
若者は信号機を横目で見ながら、
正拳突きを始めた。
完
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#信号機ぶどう味
#毎週ショートショートnote
🦆💬
ガー
( こちらの企画に参加させていただきました )
