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【3つのお題に…第61回】『記憶蝶』【ファンタジー】

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ようこそ、皆さま!セイウチです。

​波打ち際を歩いていたら、今日もまたひとつ、瑠璃色に透き通るガラス瓶が流れ着いていました。

コルクを抜くと、ふわりと甘い砂糖水の香りと、誰かの温かな思い出が溢れ出してきます。

​お気に入りのコーヒーは淹れられましたか?

本日は、あるお孫さんが拾い集めた「消えない記憶」の漂流記を、アナタにお届けしますね。


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『記憶を運ぶ蝶』


空をひらひらと舞う瑠璃色の羽――「記憶蝶」は、現代においてちょっとした娯楽として親しまれている。
人の記憶を吸い上げ、特殊な鑑賞機にかければまるでビデオテープのようにその光景を再生できる不思議な虫。
だが蝶の命は儚く、日数が経つにつれて記憶は薄れて消えてしまう。
長く残すには愛情を込めて育て続けるしかなかった。

​じいちゃんもまた、記憶蝶を大切に飼っていた一人。
「こうしてやると、思い出が長持ちするんだ」
幼い頃、砂糖水を吸わせ羽を休める蝶を愛おしそうに眺めていたじいちゃんの姿をよく覚えている。

​そのじいちゃんが亡くなり、遺品整理をしていた時のこと。
押し入れの奥から、ガラスケースに入った一羽の標本が見つかった。
じいちゃんが愛用していた記憶蝶だった。
標本にされた記憶蝶は、急速に記憶が劣化してしまう。
だが、近年の復元技術を使えば、わずかでも映像を掘り起こせるかもしれない。
俺はすぐに専門の業者へ修復を依頼した。

​数日後、業者からデータが送られてきた。
『劣化が激しく、大半の映像は破損していました。ですが、ある場所の座標と日付データだけが鮮明に残っていました』
​ 

添えられていた日付は、驚くことにちょうど今日だった。
指定された近所の鎮守の森へ向かうと、古びた社の裏手に小さな箱がひとつ、ぽつんと置かれていた。
時を越えて物を送り届ける「百年後に届く宝箱(タイムボックス)」だ。
じいちゃんが生前、日付を設定して仕込んでおいたのだろう。


『百年後に届く宝箱』


​箱を開けると、中に入っていたのは一冊の分厚い冊子――大昔の写真を集めた「フォトアルバム」。

​ページをめくると、モノクロやセピア色の写真が並んでいた。

『海まで走った夏休み』



『海まで走った夏休み』と題された写真には、小さな手にお小遣いを握りしめ、駄菓子屋の氷菓をかじりながら眩しそうに笑う少年時代のじいちゃんが写っていた。
裏には『冷たいアイスが溶ける前に、あいつと海まで走った』と拙い文字で書かれている。



『花火が消えたあと』


次のページには『花火が消えたあと』。
少し成長したじいちゃんと、若かりし頃のばあちゃんの姿があった。
打ち上げ花火が終わったあとのばあちゃんとじいちゃんが並んで座っている。
写真は二人に内緒で、友人が後ろからこっそり撮影したものらしい。
裏には、じいちゃんとばあちゃん、そして撮影した友人の名前が並んで記されていた。

​じいちゃんの生きてきた時間が、鮮やかな温もりを持って胸に迫ってくる。
そのとき、アルバムの最後のページから、ひらりと一枚の紙切れが足元に落ちた。
​拾い上げて開くと、そこには達筆だがどこか震えた、じいちゃんの手書きの文字があった。

​『この手紙を読んでいる孫へ。じいちゃんとばあちゃんの思い出を置いていきます。写真が嫌いなばあちゃんだったから、あいつの姿は隠し撮りくらいしか残せなかったけれど、できたら、私たちのことを少しでも覚えていてくれたら嬉しいです。
ですが、この思い出をどうするかは、孫である君に託します。
たぶん、亡くなる間際に直接言えないと思うので、ここに書いておきます。君は本当にいい孫でした。お父さんとお母さんのことをよろしくな。
さようなら。また、どこかで』

​記憶蝶の記憶は、いつか消えてしまう。
けれどじいちゃんは、蝶が消えてしまう前にその記憶をタイムボックスへ繋ぎ、消えない「写真」と「手紙」に変えて俺に届けてくれた。

​「……ずるいよ、じいちゃん」

​託された言葉を抱きしめながら、俺は静かにアルバムを閉じた。
じいちゃんとばあちゃんが生きた証は、俺の記憶の中で、これからもずっと羽ばたき続ける。


(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただきありがとうございます!


記憶はいつか薄れ、形ある技術もいつかは廃れてしまうかもしれません。

けれど、「誰かに伝えたい」という強い想いだけは、どんな時代であっても形を変えて届くのだと信じています。

​作中の主人公のように、作中のおじいさんとおばあちゃんの生きた証が、読者の皆様の心の中でも少しの間だけ羽ばたいてくれたなら、これ以上の喜びはありません。



【片桐 みかん】さん、素敵な企画をありがとうございます!


毎週火曜日に自分の作品を投稿、企画に参加させていただく時は不確定的に投稿します!


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