【毎週ショートショート】『人魚裁判所』【ダークファンタジー】
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ようこそ、皆さま!セイウチです。
波打ち際を散歩していたら、冷たい海水に揺れる小さなボトルを見つけました。
中に入っていたのは、どうやら海の底から届いたお話のようです。
皆さま、温かいコーヒーの準備はできましたか?
本日アナタにお届けする漂流記は、少し深くて苦い、ある裁判の記録です。
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「静粛に!」
暗い海底の裂け目に建てられた『人魚裁判所』に、裁判長の大声が響き渡った。
被告席に立っているのは、若い人魚の少女だ。
彼女が犯した罪——それは「人間の男性に恋をした」という、海底社会における最悪の禁忌であった。
「被告。人間の欲には際限がないの。捕まれば不老不死の妙薬として利用され、そこから私たち人魚の住処まで特定される危険性があるのよ!」
と、検察側が青筋を立てて糾弾する。
しかし、弁護側は鼻で笑い、朗々と胸を張った。
「ナンセンスだわ!『愛』という高潔な感情は、愚かな人間をも改心させるはず! 彼女の純真な心こそ、人間との平和な未来を切り拓く光よ!」
「そんなことないわ! きっと彼も私のことを愛しているもの!」
と被告の人魚も涙目で訴えた。
熾烈な議論の末、裁判長が下した判決は
——「無罪」。
先進的で高潔な『愛』の勝利に、弁護人側は満足げに微笑み、検察側は苦虫をかみつぶした。
喜んだ人魚の少女は、一目散に地上へと泳いで行った。愛する人間の男と暮らすために。
——数日後。
地上へ向かった人魚は、二度と戻らなかった……。
彼女は人間に捕まり、不老不死の妙薬として市場で捌かれてしまったのだ。
「どういうことよ!」
事実を知った検察側は、裁判所に怒鳴り込んだ。
「あなたたちが『愛の力』だのなんだのと戯言を抜かして無罪にしたせいで、彼女は死んだのよ!」
だが、あんなに威勢のよかった弁護側は、そっぽを向いて冷淡に言い放った。
「さぁ、何のことです? 私たちは法廷で彼女の『権利』を主張しただけよ。その後の自己責任まで知ったことではありませんわ。」
「しらばっくれないでよ! 責任をとりなさい!」
「判決を下したのは裁判員たちよ! 私たちではないわ!」
「いいや、適切な証拠を提示して私たち裁判員を説得できなかった検察側の落ち度よ!」
かつて「高潔な愛」を語っていた裁判所は一変した。
「あなたたちのせいよ!」「いや、あなたたちよ!」と、己の保身のために醜い責任の擦り付け合いが始まり、厳粛だった場は泥沼の罵り合いへと変わっていく。
自分たちの愚かな声に夢中になる彼らは、気づいていなかった。
頭上の海面から、ドドドドド……と。
人間の漁船の立てる低いエンジン音が、ゆっくりと、確実に近づいてきていることに……。
(了)
※この物語はフィクションです。
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最後まで読んでいただいてありがとうございます!
いかがでしたでしょうか?
私的に気に入っているのが、裁判所で「裁く」と不老不死の妙薬として「捌く」というダジャレです。
他にも、少女の悲劇で終わらせず、裁判所の「責任のなすりつけ合い」に人間たちの影(エンジン音)が忍び寄るラストシーンも気に入ってます。
理想を持つのはいいでしょうけど、地に足つけるように現実も見ないといけませんね。
(人魚に足はありませんが……。)
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