見出し画像

なぜあの国はサッカーが強いのか?ブラジルとフランスの「格闘技カルチャー」から紐解くW杯の深層

はじめに:戦術論だけでは説明できない「身体文化」の秘密

ワールドカップ(W杯)の熱狂のなかで、私たちはよく「ブラジルの個人の創造性」や「フランスの圧倒的なフィジカルと組織力」といった言葉を耳にする。現代サッカーはデータ分析や戦術パラダイムの進化によって均一化が進んでいると言われるが、それでもなお、強豪国が持つ「固有のプレイスタイル」のDNAは色濃く残っている。

では、そのプレイスタイルの源泉はどこにあるのだろうか?

多くのスポーツライターは、その国のサッカーの歴史や育成システムを語る。しかし私は、もう一つの視点を提示したい。それは、その国に根づく「格闘技・武道カルチャー」だ。

格闘技とは、究極の身体操作と戦術、そして精神力のぶつかり合いである。実は、サッカー大国として世界に君臨するブラジルとフランスは、いずれも世界最高峰の「格闘技大国」というもう一つの顔を持っている。

この記事では、彼らのフットボールの強さの秘密を、その国独自の格闘技カルチャーという補助線を使って解剖していく。そこには、ピッチの上の戦術論だけでは決して見えてこない、人間の肉体と文化の深い相関関係があった。

第1章:ブラジル〜カポエイラと柔術が授けた「即興性」と「絶対的体幹」

ブラジルサッカーを語る際、最も象徴的な言葉が「ジンガ(Ginga)」だ。リズミカルに体を揺らし、相手を惑わす独特のステップ。ペレやロナウジーニョ、ネイマールらが体現してきたあのステップのルーツは、ブラジルの伝統武術である「カポエイラ」にある。

カポエイラがもたらした「予測不能なステップ」

カポエイラは、かつて奴隷たちがダンスに偽装して発達させた格闘技だ。音楽のリズムに合わせ、常に重心を移動させながら、アクロバティックな蹴りやステップを繰り出す。 この「常に動き続け、次の動きが予測できない」という特徴は、そのままブラジル人アタッカーのドリブルに受け継がれている。相手ディフェンダーと対峙した際、ブラジル人選手は静止しない。カポエイラのようにリズムを刻み、一瞬のフェイントで相手の逆を突く。彼らにとってドリブルとは、ピッチの上で踊るカポエイラそのものなのだ。

ブラジリアン柔術(BJJ)が鍛え上げた「密着戦の強さ」

もう一つ、ブラジルが誇る世界最強の格闘技が「ブラジリアン柔術」だ。グレイシー一族が発展させたこの寝技主体の格闘技は、テコの原理を使い、自分より大きな相手を制する技術に長けている。 これがサッカーにどう影響するのか。それは「ペナルティエリア内でのボディコンタクトの強さ」だ。柔術家は、相手と密着した状態での重心のコントロールや、相手の力を利用してバランスをキープする技術(フレーム)に優れている。ブラジルのFWが、後ろから激しいプレスを受けながらもボールをキープし、倒れずにシュートまで持ち込めるのは、柔術的な「密着状態での絶対的な体幹の強さ」が文化として肉体に染み込んでいるからだと言える。

ここから先は

1,558字 / 2画像

¥ 300

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?