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(お題ss雨の日には)この美しい世界

 ぽた、ぽたぽた……。ざーざー。
外は雨が降り始めたよう。
開け放した窓から、雨が落ちる音と湿気を帯びた夏の風が入ってきた。

 私は窓際の椅子に腰を下ろし、彼が帰ってくるのを一人で待っている。
誰もいない部屋には、雨音以外は聞こえない。

 「そういえば、傘は持っていったかしら」
朝の天気予報では、今日は曇りのち雨と言っていた。
 彼が出かける前に一言、声をかけておけば良かった。
傘を持っていっていたか分からない、今の自分が少しもどかしい。

 「ねぇ、今何時?」
部屋の誰かに問いかけると、機械音声が17時を告げる。
「あと、一時間か…」
感情が少し、喉に滞留している気がした。

 一人の時間は、長いようで短い。
それまでただ、静かな部屋でぽつんと待つ。
寂しさを抱きしめながら。

 夏の風に混じって、ほのかに苦い匂いを感じた。
その匂いで、彼が出かける前に入れてくれたコーヒーのことを思い出した。

 手探りでテーブルのコーヒーカップを探す。恐る恐る机の上を進んだ指先は、カップの縁を見つける。そのまま、そっと口元まで運んだ。
 少し温いコーヒーは、室温と相まって、私の心も優しく温めてくれた。
 飲み終えて、カップをテーブルにまた戻す。
ふぅと一息ついて、綺麗な雨の音に耳を澄ます。

 ざーざーと降る雨の音。
雨の日には、楽しみがある。
雨が落ちる音。
跳ねる音。
弾ける音。
 たくさんの音たちに包まれ、私は彼の帰りを待つ。

 ━━見えない世界で。
音と、触れたものだけを頼りに。
耳を澄ます。

 風鈴が夏の風に揺られ、リンと鳴った。

 

たまには、掌編も書きます。
きれいなお題、ありがとうございます!

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