見出し画像

温度と呼吸。【95】帰したくないな

アトリエから、駅までの帰り道。


住宅街を、夜風が吹き抜ける。


アリーシャが、片手で長い髪をおさえた。


ちらっと美波の横顔を見る。


「……寒くない?」


「んー? 大丈夫だよ。ありがと。」


美波は、つないだ手をギュッとする。


「メラニー、相変わらずだったねー。」


「……イタズラしすぎ。」


「あはは、あの絵はねー。」


「……気になる?」


「アリーシャ、モテるんだねー。」


「……いじわる。」


美波は、ひとさし指でアリーシャの手をそっとなぞった。


「ちょっとは、気になるよ?」


「……ほんと?」


「だって……そうでしょ?」


「……うん。」


「……。」


「……だいじょうぶだから。」


「えっ。」


「わたし……ぜったい。」


青い瞳が美波を見つめていた。


「うん、わたしも……」


「……ん。」


駅の明かりが近づいてきた。


「あーあ。」


美波がつぶやいた。


「帰したくなくなっちゃった。」


夜風が当たっても、アリーシャの頬は熱いままだった。




📖 はじめての方へ

📚 全話はこちら

🌙 エッセイ


【登場人物】

・七海 美波

 高級車ショールームで働く、20代前半の女性。


・アリーシャ

 20歳のロシア人ピアニスト。世界的な才能を持つ。


・メラニー

 フランス人画家。自由で、おしゃべり。


・三田 りお

 美術館キュレーター。落ち着いた雰囲気を持つ20代中盤の女性。


・西 茉莉

 美波の同僚。明るく親しみやすい性格。


いいなと思ったら応援しよう!