冬の岐阜紀行・二日目 平瀬大滝・飛騨大鍾乳洞
二日目
6:00 早朝の高山
写真趣味の朝は早い。と言っても6時だが。
前日に白川郷で良いスタートを切った私たちは、高山市で一泊した。
♪タタタタタ、タン、タタタ……
べち!!!
目覚ましのアラームをワンフレーズで黙らせる。あいさつするよりも先に体を起こして、フラフラと電気ケトルに向かう。
前日の夜に入れたお湯が少し残っている。スイッチを入れた。
「おはようー」
「おはようございます……」
もそもそと着替えているうちに目が覚めてくる。
今回は冬の寒さを想定して、山用に買ったワークマンのベースレイヤーを着ている。着ていて思うのが、上半身より下半身を手厚くしたほうが暖かく感じるということがわかった。

コーヒーを準備し、朝ごはんをもそもそ食べる。
「先輩、お土産まとまりました?」
旅行初日、先輩はたくさんお土産を買っていた。かさばる箱もので「宅配で送らないといけないかも……」と話していたが、うまくまとまったとのこと。
身支度を整えて、朝の散歩に向かった。
旅行先では朝の散歩が心地よい。
個人的な感覚だが、朝は光が綺麗だ。まだ起ききっていない街は、何とも言えない良さがある。


今回、先輩がしたかったこととして、「凍っていくシャボン玉」があった。
-8℃を下回ると、シャボン玉に雪の結晶が見え始めて凍っていくというやつだ。
運がいいのか悪いのか、今回は天気が良すぎる上に気温もほどほどだった。
確かに寒かったが、地元でたまにある「耳が引きちぎれるくらいの寒さ」ではなかった。
昔、「初日の出を撮るんだ」とクッソ寒い中スタンバイして、鼻水どころか耳が持って行かれるぐらい寒かった経験がある。
雪国四天王でも最弱。されど四天王である。(※言ってるだけで寒いところはもっと寒い。四天王ですらない地元)
人目の少ない公園でこっそり、シャボン玉を膨らませる。シャボン玉は凍ることなく弾けていった。
試行錯誤した結果、「日陰の金属製の遊具に落としてみてはどうか?」という話になった。
ぷう、と膨らんだシャボン玉は形を崩すことなく遊具にくっついた。
どきどきと見守る。シャボン玉は凍り付く気配はない。「あれ?」と二人して首を傾げた。
つんつん。指でつつく。
シャボン玉は割れない。むしろ、謎の皮が出来上がって、ぱりぱりと風船のように割れた。
「やっぱ難しいかー。夜の方がよかったかも」
先輩は少し落胆したようだった。
こればっかりはどうしようもない。自然相手だ。
「今晩の郡上八幡に期待だねー」
先輩はシャボン液をしまう。
シャボン玉チャレンジは失敗に終わった。

高山市と言えば、景観保存区域がある。いわゆる古い木造家屋の街並みだ。
夏に来た時は旅行客であふれかえっていた。やはり撮影をするのなら早朝に限る。
川沿いを歩いていると、川に鴨が泳いでいた。
先輩がカメラを向ける。
「ああ! なかなか鴨同士絡んでくれない……」



歩いていると、人の往来が見えてきた。
「あ、朝市やってますよ!!」
高山では毎朝朝市が開催されている。新鮮な野菜やお土産物がいっぱいあった。

朝ごはんをここで調達してもよかったな。すでにお腹がふくれてしまっているので食べられない。
だがこういうのは経験である。「玉天」を買ってみた。
玉天
くしゅふわのマシュマロみたいな食感の身にうっすらと卵をつけて焼いたやつ。
後で調べたところによると、富山県八尾名物だった模様。
焼いてくれてる店員さんはかなり物腰の柔らかいお兄さんだった。
それこそ「ふわくしゅ」である。
口に入れるとくしゅっと潰れる食感が面白い。うすく甘いのもいい。
先輩は近くのお土産屋さんで黒豆茶を試飲させてもらっていた。
私も貰う。
何故かこのおみやげ屋さんの姐さん、先輩に二杯も三杯も黒豆茶を勧めていた。店内をゆっくり見せてもらう。
せっかくなので、堅ポテトの飛騨高山限定味を買った。
最近の日本では難しいのかもしれないが、店先に並ぶ漬物などの原産が外国だったりすることが多い。ふと気になって手に取ったショウガの佃煮。原材料表示を見ているとお土産屋さんの姐さんが、「ジンジャー!!」と教えてくれた。(外国人に見えたのかもしれない)
だが、原材料の生姜が外国産であることに気付いて、あいまいな笑顔を浮かべて棚に戻した。
勝手なものだが、やはり地元の物を食べたり飲んだりしたいなと思うのだ。(そうして買うものが地酒、調味料系になっていく……)

9:00 平湯大滝に向かう
追求をしたことはないが、たぶん先輩は「滝」に対して何らかの憧れやロマンを感じているように思う。初夏や秋に「岐阜県で滝をめぐる旅」なんか企画したらすごい楽しいかもしれない。四十八滝とか行ったらどうなっちゃうんだろう。
ともあれ、冬の雪景色とセットで楽しめる滝を探したところ、「平湯大滝」がヒットした。
平湯大滝のポイントとしては行けるところだろう。2月中はライトアップもやってるそうだ。
幸いなことに道中に訪問予定の飛騨大鍾乳洞があるので、まずは奧にある平湯大滝に行くことにした。だいたい1時間ほどの移動だ。
高山市から山の方に向かうにつれて雪が増えてくる。
スリップするようなことは無かったが、脳裏をよぎるのは11月の福井県でのスリップ未遂。(※11月に福井に山登りに行ったらハンドルとられた。むっちゃこわい)
時速40kmを目安を安全運転を心がける。特に日陰になるところは減速した。
今年、やたらと「箱根にノーマルタイヤで行って叩かれた人の話」が話題になったが、雪国民としては12月前にスタッドレスに替えるのはもはや年間行事である。それでも路肩に突っ込んだ自動車を見つけるたびに、明日は我が身と合掌するばかりだ。
10:00 たどり着いた先は「平湯温泉スキー場」だった。

Googleマップのとおりにやってきたら、スキー場に案内された。
はて? 平湯大滝はどこに? 車で近くまでアクセスできると聞いていたのだが。
調べてみると、平湯大滝はスキー場の右横の道を奧に進んでいくとあるらしい。
25分ほど。
……いやめっちゃ歩くな???
当初滞在時間を小一時間と思っていたが、往復で吹っ飛ぶ勢いである。
だが、ここまで来て行かないわけにはいかない。
「凍結が心配なので、もしあまり滑るようでしたら引き返しましょう」
今回の旅行の計画の大本は私である。責任はとらねばならない。ここは、「行きたい」と言われても状況次第では撤退だ。
つま先でちょいちょいと確認する。滑ることなく歩けそうだった。
(※早朝や夜に行く場合は、念のためにチェーンスパイクやストックあった方がいいかもしれません。昼間はサングラス推奨。まぶしすぎる)





(……やばい、ちょっと楽しくなってきちゃった)
山登り気分である。旅行なはずなのに、やってることが普段の土日と変わらない。
「暑いー!!」
寒さを想定してダウンを着こんでいた先輩が言っていた。そうですよね、寒いと思いますよね。私も思ってた。
「ダウン脱がれた方がいいですよ。向こう行って写真撮る時には着たらいいと思います」
私もダウンの前のボタンを外す。籠った熱気が逃げた。
直射日光であまりにも天気が良すぎる。太陽光だけで充分暖かかった。
「もう半分は来たかな?」
先輩に聞かれた。少し返答をためらった。
山あるあるなのだが、「もうちょっとでつく?」に対し、「もうちょっとですよ」「あと五分ですよ」は詐欺行為に値する。
Googleマップを確認すると、2/3ぐらいは進んでいた。地図を見せて、「2/3はきましたねー」と伝える。少し希望が持てたようだった。
休憩所のような建物を過ぎた頃、平湯大滝は突然現れた。

「あ!! 氷瀑!! 氷瀑してますよ!! 凍り付いた滝、初めて見ました!!」
私大興奮。
完全に凍り付いてはいないが、人生初の氷瀑はテンションが上がる。


完全に逆光で撮影に手こずった。残念ながらこれ以上は近づけない。
「立ち入り禁止」のテープは、写真撮影をする人間としては守らなければいけないことだ。
毎回思うのだが「危ないので立ち入らないでください」に対し、「自分なら大丈夫」ってどこに根拠あるんだろうか? 論理的に100%可能な理由を説明してほしいと思う。
撮影を終えた後、食事の話になった。
予定はアルプス街道平湯を想定していた。だが、平湯大滝で思った以上に時間を使ったため、おりてすぐの「あんき屋」さんで頂くことにした。

朴葉味噌+とんかつ。
味噌がうめぇ。ごはん何杯でもいける。
そもそも前日の昼過ぎから食事が軽めなので、ガッツリした食事というのはこの昼食が初めてだった。
先輩も同じものを食べていたのだが、途中でおなかがいっぱいになってきたらしく、箸の進みが遅くなっていた。私も結構お腹にきていたが、ゆるゆると食べすすめる。
「え?! ゆうてんちゃん、全部食べたの?!」
ものすごく驚かれた。
ハイ、食べれます。ガチの登山後だったら大盛じゃないともたないくらい、食べます。
(朴葉味噌買っていってー、ポケットストーブで加熱して肉焼いて食べる……これ夏に白山でやりたいなぁ)
そんなこと考えながら食べていた。絶対美味しい。
12:30 飛騨大鍾乳洞到着
日も高くなってきたので、かなり運転しやすくなった。飛騨大鍾乳洞に向かう。
鍾乳洞というと、どうしても某ラジオの人を思い出す。あの人は旅行の道中に「冒険」に目覚めた感があった。登山もその延長だし、よく各地の鍾乳洞に行っていた記憶がある。
飛騨大鍾乳洞は入場料が1,100円だが、いろんなサービスで前売り券があって少しお得に入れるので探してみるといいかもしれない。私は楽天トラベルを使用した。
鍾乳洞は狭いところや天井の低いところもあるので、160cm越えの人は頭上注意である。また、鍾乳洞折ったら罰金らしいので気をつけよう。






初めての鍾乳洞で、撮影に悪戦苦闘した。どう撮ればいいのか分からない。

この写真を撮ったあたりから、「いっそ勇者一行が洞窟を探索しているような写真撮ったろ」と吹っ切れ始めた。


ほら、何となく90年代のファンタジーアニメとかゲームに出てきそうな背景じゃない?(オタク感)
頭の中にずっとフリーレンがよぎっていた。




なお、飛騨大鍾乳洞では、低温貯蔵を行っているらしく訪問の際に貯蔵キープもできるとか。
今回訪問し、キープして10年後再訪、とかも考えたりした。
事前情報だと焼酎、日本酒、ワインとあったが、ワインは今やってないらしい。

国会議事堂……うん、見えないことも無い。





「月の世界?」
月面っぽいような見た目なのだろうか? まあ鍾乳洞白いしな。
登って行ってみたが、階段も狭いし頭上もすれすれだ。

「え?!」
後ろから先輩が驚いた声を上げた。
「え? どうしたんですか?」
「あ、いや。何か黒いものが横切った気がして」
「え……?! こうもり? いやまさか……」
「いや、こうもりかもしれない!!」※こうもりでした。
飛騨大鍾乳洞にはいくつか説明の札が着いていたが、「○○こうもりのすみ処」と書かれた場所が確かにあった。
何もいなかったので、雰囲気的なそれかと思っていたのだが。

出口を出たところ。先輩はおみくじを引いていた。「焦ったらよくないよ」的な内容だったようだ。
この左手側の見切れた部分は、昔お土産屋さんだったのだろうか? ガラス張りで小屋みたいになっていた。平成初期ぐらいに作ったのかな、などと、建てた当初の頃に想いを馳せる。
木製の新しめの渡り廊下を歩いていく。
すると、突然現れた。

「「は?」」
飛騨大鍾乳洞、冬の名物「氷の渓谷」である。
「「ふおおおおお!!! すごおおいいい!!!」」
思わず窓に張り付いて写真を撮り始めた私たち。
飛騨大鍾乳洞では冬季に水を撒いてこのような景色を作っているらしい。






平湯大滝が近くに寄れなかった分、この氷の渓谷は距離も近く迫力もあって面白かった。

最後にお土産屋さんに寄って、低温貯蔵の日本酒を買った。
商品の中に、デフォルメされたこうもりが描かれたTシャツがあった。
「あの。洞窟の中ってこうもりいるんですか?」
とお店の姐さんに聞いてみた。
「いるよぉ。といっても、移動してるからどこにいるかはわかんないけどね」
笑って教えてくれた。
やっぱりこうもりだったらしい。
閑話 道の駅通り過ぎ問題
14:30、飛騨大鍾乳洞出発。
結局二時間ばかり、きっちり楽しんでしまった。
しかし順当に行けば17:00には郡上八幡につくことができる。
「道の駅 ななもり清見」でお土産を見ることにした。
国道158号線に乗る。「氷の渓谷すごかったですねー」「平湯大滝近くにいけなかったから、氷の渓谷はうれしかったー!!」
なんて話をしていたら、「道の駅 ななもり清見」に行く高山西ICを通り過ぎてしまった。
あわてて次の飛騨清美ICで下りて引きかえす。15:00ちょっとすぎぐらい。時間ロスもあったが、買い物するぐらいなら充分だ。
「ねえ、ゆうてんちゃん……」
「はい?」
「道の駅、16:00閉店になってるんだけど?」
「はぁ???」
敬語がぶっ飛んだ。
「は? 道の駅って普通17:00ぐらいじゃないですか? なんで16:00に閉まるの? え? 意味わかんない」
意味わかんないのは私の思考である。人様のお店の営業時間にケチをつけてはいけない。
ナビで検索したところ、16:40には到着することが分かったので何とかなったが。
なお、この道の駅ななもり清見さんは飛騨牛が食べられるそうなので、岐阜県を旅行する際は、道の駅でお食事をすることを前提にするもの楽しいかもしれない。
閑話 郡上八幡のスーパーでまさかの出会い
さて、無事にお土産を買ったところで、次の目的地のナビをセットする。
私は学んだのだ。最終目的地の他に立ち寄り場所をセットするということを。
というわけで、郡上八幡にあるスーパーを目的地にする。
目的としてはやはり翌日の朝ごはんである。
弁当やおにぎりという気分でもないので、この日はパンをチョイスした。
先輩がお菓子コーナーで探し物をしている時に、ふと製菓コーナーが目にはいる。
クレミーホイップが売っていた。
クレミーホイップ
常温保存のホイップクリームの素。冷たい牛乳を混ぜるとホイップクリームが作れるらしい。
「山を渡る」作中にて、南部料理長が北アルプスでぷるんぷるんケーキを作る時に使った材料。なお地元では売っていない。
無論、そばに置いてあったフルーチェと一緒に買った。
郡上八幡まで来て、何を買っているんだろうか? 私は。
17:30 郡上八幡到着。チェックイン
旅行において2日目の宿泊先をどこにするか?
悩んだ末に決まったのが郡上八幡である。
お世話になったのは、シティホテルの吉田屋さんである。
入って目の前に段飾りの雛人形。奧に見える中庭。
ビジネスホテルにはない、ちょっとした贅沢さがあった。

鍵を受け取り、本日の「郡上八幡のおうち」に向かう。(※Lさんが使う言い回しだが、すごい気にいったので自分でも使っていくスタイル)
通された部屋は洋室である。
今回、吉田屋さんのご厚意で、和室の部屋から洋室に変更していただけた。和室でもエモエモのエモなのだが(語彙力)、吉田屋さんの和室は部屋にお手洗いがなかったのでこれは有難かった。
早速部屋で靴をスリッパに履き替える。簡単に荷ほどきをしていると。
「あれ? カメラがない」
自分の持ってきた荷物にカメラがない。
記憶を辿る。
駐車場に車を入れた。車から降りるときにカメラは持った。
自分のキャリーケースを車から降ろした。
あれ? 私、チェックインの時にカメラ持ってたっけ?
「ゆうてんちゃん、どうしたの?」
「いえ、カメラが無くて」
「え?!」
「車かもしれません。ちょっと見てきますね」
車のカギを持って部屋を出る。
「戻ったら呼んでね」
と先輩に見送られて、エレベーターに乗った。
「……あれ?」
自分の足元を見る。
スリッパだった。
なお、靴は取りに行ったし、カメラは運転席の方にほったらかしにしていたのできちんと回収した。
18:00 郡上八幡散策・夜闇にまぎれしモノ
さて、カメラの回収が済んだところで、これからの行動を相談する。
夕食の予定だったのだが、ふと窓を見ると郡上八幡城がライトアップされていた。
吉田屋さんは距離的に近いこともあり、「夕食前にちょっと行ってみよう」という話になった。
思えば車を出せばよかったのだが、郡上八幡城の駐車場事情も分からないので、徒歩で動くこととなった。
「あんまり寒くないねー」
「そうですねー」
「びっくりするくらい雪がないね」
「本当に。こんな無いとは思いませんでした。高山市の方が寒いくらいですね」
ぽてぽてと坂を登っていく。城山公園までたどり着いた時に、バチン!と結構大きい音がした。
「何?!」
「え、猿?! 何?!」
静まり返る中で、耳を澄ませていると、またバチン! バチン!と音がする。
落ち着いたころにまたバチン!
「藤かな?」
「藤? 藤って弾けるんですか?」
バチン! バチン!
進行方向の暗闇でも謎の弾ける音がする。
「先輩、やめときましょう。わけわからないときは行かない方がいいです」
というわけで、早々にお城にいくことを諦めた。



かくして夜の郡上八幡城を諦めた私たちは、夕食を求めて郡上八幡の町に繰り出した。
私は、「このお店に行こう!」と決めたはいいものの、「満席!」「臨時休業!」「貸し切り!」となるパターンが多い。
なので今までの失敗を活かし、先輩にも3件ほど探してきていただいた。
「ここから一番近いのは、先輩に調べてきていただいたお店ですね」
「じゃあ行ってみようか」
なお。郡上八幡の夜の食事はちょっと敷居が高そうなお店が多く(吉田屋さん併設の美濃錦もなかなかいいお値段)、手頃な居酒屋さんは満席で断られた。(そしてこのお店でも外国人に間違えられた)
「またか!! いつもこんなんやないか!!」
吠えた。
郡上八幡で食事をする際は、18:00までに探しておくか予約するのが無難である。
余談ではあるが、コロナ以降、外食をするというハードルがものすごく上がった気がする。どこも予約ありきだ。今後旅行することがあれば、夕食時間を決めた上で動くか、夕食はカップ麺か弁当覚悟で挑む必要がありそうである。
19:00 夕食
いろいろ探した結果、「ビストロ屋」さんに行くことになった。
郡上八幡で私がひそかに楽しみにしていた日本酒飲み比べはあえなく立ち消えてしまった。
田舎住まいだと車のことが心配で飲み会で存分にお酒を堪能できない。
なので、正月と旅行ぐらいは明るい間からお酒を飲むのが私の贅沢なのである。
と、今なら多弁に語れるのだが、恐らく当時は先輩に気を遣わせていたと思う。朝の9時から18時まで高山市~平湯~郡上八幡と運転をしている。自覚していないだけで結構疲れていたようだ。
だが、この立ち寄ったビストロ屋さんがとても美味しかった。
「ゆうてんちゃん、何頼む?」
「えーと。えーと」(もう頭働いてない)
「私、生春巻き頼んでいい?」
「あ、じゃあ私はケイジャンチキンいいですか?」
「いいよ。パスタかピザをシェアしようか? 何がいい?」
「トマトとアラビアータだと迷いますね……アラビアータでお願いします」
先輩はあまりお酒を飲まれない方なので、私だけ楽しませていただいた。
お店は私たちの他に一組だけお客さんがいたが、しばらくすると私と先輩だけになった。
届いた生春巻きを一口かじってびっくりした。
「うっま……! え、うっま!!」
野菜がシャキシャキ。おそらく日本人が苦手なパクチーは使っていない。ソースが美味しい。
疲れから麻痺していた空腹を思い出す。むっちむっちと生春巻きを平らげた。思えば一人一皿でもいいぐらいだった。美味しい。めっちゃ美味しい。

黒ビールは苦手だったのだが、クリーミーでおいしい。
私これなら飲める。



結構辛め。
閑話 郡上八幡の夜は更けていく
私はどちらかというと、計画通りに物事がいかないと嫌なタイプだ。型に押し込まれるのは嫌いなくせに、一つの筋道が決まっていた方が安心する。
しかし、その通りにものが運ぶことは少ない。
だからなるべく詰め込まないようにはしている。それでもこのように「食事が出来る店がない」といったトラブルが起きるのだ。
そういう流れも楽しめる。そんな旅もいいではないか。
寒さの薄れた夜の郡上八幡を歩く。
旅館に戻って、大浴場に向かった。ぬるめのお湯で手足を伸ばした。
あと半日だ。明日こそはちょっと雪がちらついてくれるといいな。
夕食問題について。
今回、同行者がいたのでやらなかったが。
これが一人だった場合は、私はキャリーケースの中に忍ばせていた非常食のカップラーメン(味噌味)を食べていた。それかスーパーで総菜と日本酒を買っていたと思う。それもまた旅だ。
