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【Case 4 第1部】目を覚ました4人と消えた記憶

みなさんこんばんは!
行動心理士の僕です。

今日は、少し変わったお話をしたいと思います。

いつものように、

この仕草には、こんな可能性があります

と最初から心理学を解説する記事ではありません。

今回、皆さんには物語の中に入ってもらいます。

⚠️注意⚠️

本記事の物語部分はフィクションです。

また、非言語行動や発話の変化だけから、

「嘘をついている」

「犯罪を行った」

と断定することはできません。

緊張、不安、恐怖、記憶検索、対人関係、個人差、文化差、身体状態など、

同じ行動変化には複数の説明が考えられます。

本シリーズでは、単一行動ではなく、ベースライン・変化・複数の手掛かり・文脈・証言内容を組み合わせながら考えることを重視します。


もし、あなたが目を覚ましたら

想像してみてください。

目を開けると、そこは見たことのない部屋で、携帯もなく、窓の外には深い森。

そして、どうして自分がここにいるのか分からない状況。

そんなとき、皆さんなら、最初に何をしますか?

A

まず扉や窓、出口を確認する。

B

近くにいる人へ話しかけ、何が起きているのか聞く。

C

すぐには動かず、まず部屋や周囲の様子を観察する。

ひとつだけ、この中で自分に当てはまるものを選んでみてください。

それでは、始めます。

1.目を覚ました4人

最初に目を覚ましたのは、一人の男性でした。

年齢は30代半ばほど。

ここでは彼を、Aと呼ぶことにします。

Aは目を開けると、数秒間天井を見つめました。

そして身体を起こすと、すぐにベッドを降ります。

「……どこだ、ここ」

独り言をつぶやきながら、まず確認したのは扉でした。

  • ノブを回す

  • 開く

  • 次に窓

  • 鍵を外そうとする

しかし窓は開きません。

Aは何度か強く引いたあと、今度は部屋の壁、天井、クローゼットへと視線を動かしました。

考えるより先に、出口を探しているように見えました。

廊下へ出ると、別の部屋から女性が現れました。

20代後半から30代前半ほどでしょうか。

彼女を、Bとします。

BはAを見るなり、

「あなたも……ここがどこか分からないんですか?」

と尋ねました。

Aは短く頷きます。

「分からない」

「最後に覚えていることは?」

「……普通に家にいた。それから先がない」

Bは少し考え、

「私もです」

と答えました。

ただ、Aとは違いました。

Bは廊下や扉を見るより、Aの顔を見ながら質問を続けました。

  • 名前

  • 仕事

  • 住んでいる場所

  • 最後に覚えていること

一つ聞いては、次の質問をする。

混乱している状況の中でも、まず人から情報を集めようとしているようでした。

そこへ、ゆっくりと三人目が現れます。

60〜70歳前後と思われる人物でした。

ここでは、Cとします。

Aがすぐに聞きました。

「あなたも何も覚えていないんですか?」

Cはすぐには答えませんでした。

廊下を一度見渡し、

  • 天井

  • 二人の立っている位置

  • 開いた扉

  • そして、廊下の奥

それらを順番に見てから、ようやく口を開きました。

「……少なくとも、ここへ来た記憶はありませんね」

声は落ち着いていました。

Bが聞きます。

「怖くないんですか?」

するとCは、小さく息を吐きました。

「怖いですよ」

そして、こう続けました。

「だから、見ているんです」

三人には、奇妙な共通点がありました。

  • 自分の名前は覚えている

  • 自分の仕事も覚えている

  • 家族のことも、昨日までの生活も覚えている

ところが、この場所へ来る直前だけが抜け落ちていました。

まるで、フィルムの一部分だけを切り取られたように。

2.最後の一人

三人が一階へ降りると、広いリビングがありました。

  • 古い洋館のような造り

  • 大きな暖炉

  • 木製のテーブル

  • 本棚

そして壁には、少し変わった一枚の絵が飾られていました。

Bが最初に気づきます。

「……これ、何でしょう」

Aも絵を見ます。

森の中に、三軒の小さな家が描かれていました。

一軒は、細い草のようなものを幾重にも重ねて作られている。

もう一軒は、木材を組み合わせた家。

そして、少し離れた場所にある最後の一軒だけは、赤茶色の石を積み重ねたような造りになっていました。

絵の端には、黒っぽい動物の影のようなものも描かれています。

ただ、顔までははっきりしません。

Aが言いました。

「妙な絵だな」

Cはしばらく眺めてから、

「古い絵でしょうか」

とだけ答えました。

そのときでした。

「僕も、少し気になっていました」

背後から声がしました。

三人が一斉に振り返ります。

そこに立っていたのが、四人目、Dです。

40代くらいの男性。

Dは三人の視線が集まっても、特に慌てる様子を見せませんでした。

「驚かせてしまったなら、すみません」

そう言いながら、ゆっくりとリビングへ入ってきます。

Aが尋ねます。

「あんた、ここがどこか知ってるのか?」

「いいえ」

「どうしてここにいる?」

「それも分かりません」

「最後に覚えてることは?」

Dは少しだけ上を向きました。

数秒。

そして、

「自宅にいました」

と答えました。

Aの眉がわずかに動きます。

「それだけ?」

「それだけです」

Dはそう答えると、もう一度だけ壁の絵へ視線を移しました。

ほんの一瞬。

そして、何も言いませんでした。

3.4人の違い

その後、4人は屋敷を調べることにしました。

  • 玄関は開きません

  • 窓も固定されています

  • 電話はありません

  • 携帯も、財布も、時計も

不思議なのは、誰も大声で取り乱さなかったことです。

ただし、4人の反応はそれぞれ違いました。

A

扉や窓を何度も確認しました。

何かを見つけるたびに、すぐに身体を動かす。

話すときも比較的短く、

「これは?」

「ここは?」

「開かないのか?」

と質問します。

B

人に質問しました。

「何か思い出しました?」

「Dさんはどこに住んでいるんですか?」

「Cさんは最後に誰と会いました?」

相手の答えを聞きながら、次の情報を集めていきます。

C

三人より少し後ろを歩き、部屋の配置や置かれている物を確認していました。

質問されれば答える。

しかし、自分から話すことは多くありません。

D

ほかの三人よりも不思議なほど落ち着いて見えました。

少なくとも、表面上は。

Bが尋ねました。

「Dさん、怖くないんですか?」

Dは少しだけ笑いました。

「もちろん怖いですよ」

「そうは見えません」

「怖がっても、出口は開きませんから」

AがDを見ました。

しかしDは、その視線を気にすることなく、テーブルに置かれていた一冊の本を手に取りました。

4.ここで、一度止めてみます

物語の途中ですが、ここで少しだけ行動心理の話をします。

今回、僕が最初に皆さんへ見てもらいたかったのは、誰が怪しいかではありません。

  • A

  • B

  • C

  • D

それぞれが、普段、この状況でどんな行動をしているのかです。

僕はここを、この物語におけるひとつのベースラインとして置いています。

A

自分から動く
出口や物を確認する
言葉は比較的短い

B

  • 人へ働きかける

  • 質問しながら情報を集める

C

すぐには動かず、周囲を観察してから話す。

D

少なくとも今のところ、比較的落ち着いた話し方をしている。

大切なのは、この時点では、どれも「嘘のサイン」ではないということです。

落ち着いているから怪しいは成立しない

例えば

Dは、知らない場所で目覚めたにもかかわらず、ほかの人物より落ち着いています。

ここだけを見ると、

何か知っているのでは?

と思った方もいるかもしれません。

その可能性はあります。

しかし、現時点ではそれ以上のことは言えません。

なぜなら、人によってストレスへの反応は違うからです。

緊張して動き回る人もいれば、逆に行動を抑える人もいます。

よく語られる、「嘘をつく人特有の仕草」の多くは、研究上それほど強く一貫したものではありません。

DePauloらのメタ分析でも、欺瞞と関連する行動差は全体として限定的で、

Vrij・Hartwig・Granhagも、非言語的な欺瞞手掛かりについて、弱く、信頼性に限界があることを整理しています。

つまり、落ち着いている=嘘、でもなければ、視線が動く=嘘でもありません。

5.見るべきなのは、その人の中で何が変わったか

だからこそ、今回の物語では、A・B・C・Dそれぞれの行動を少し覚えておいてください。

重要なのは、誰かと誰かを単純に比べることではありません。

例えば

普段から質問の多いBが質問を続けても、それだけでは大きな変化ではありません。

反対に、普段は人の顔を見ながら質問していたBが、ある話題の瞬間だけ急に別の反応を見せたらどうでしょうか?

あるいは、普段すぐに動くAが、特定の質問だけ身体の動きを止めたら?

そして、普段よく観察してから答えるCが、ある質問だけ考える間もなく答えたら?

そこには、少なくとも、

何かが変わった

という観察可能な事実が残ります。

ただし、それでもまだ、なぜ変わったのかは別問題です。

ここを飛び越えると、

「緊張した」

「隠している」

「嘘をついている」

「犯人だ」

と、観察から結論まで一気に飛んでしまいます。

研究でも、単純な行動観察だけで真偽を高精度に判定することには限界が示されています。

ベースライン情報があったとしても、それ自体が万能な嘘発見法になるわけではありません。

だから今回、まず覚えておいてほしいのは、答えではなく「その人らしさ」です。

では、物語に戻ります。

6.最初の夜

結局、その日4人は出口を見つけることができませんでした。

外は暗くなり、森の向こうでは雨が降り始めています。

リビングには、暖炉の火だけが揺れていました。

4人は、それぞれ少し離れて座っています。

それからしばらく、誰も話しませんでした。

最初に沈黙を破ったのはAでした。

「偶然じゃないよな」

Bが顔を上げます。

「何が?」

「俺たち4人がここにいることだよ」

Dは何も言いません。

Aは続けます。

「全員、ここに来た記憶だけない」

「持ち物もない」

「出口も塞がれてる」

そして、一度だけ壁の絵を見ました。

森の中の三軒の家。

そして、その向こうに描かれた黒い影。

「……あの絵も妙だしな」

Bも振り返ります。

「確かに」

Cだけは、絵ではなく、Aの顔を見ていました。

AがDへ視線を移します。

「なあ」

「はい」

「本当に、何も知らないんだよな?」

部屋が静かになりました。

DはAを見ました。

ほんの少し間を置き、答えます。

「知りませんよ」

AはしばらくDを見ていましたが、それ以上は何も言いませんでした。

その夜。

4人は、それぞれ別の部屋で眠ることになりました。

少なくとも、そういうことになっていました。

7.翌朝

翌朝、最初に廊下へ出たのはBでした。

昨日と同じように、誰かに話しかけようとしたのかもしれません。

「おはようございます」

返事はありませんでした。

Bは階段を降りたが、リビングにも誰もいない。

しばらくすると、Aが降りてきます。

続いてC。

しかし、Dだけが来ません。

Bが言いました。

「まだ寝てるんでしょうか」

Aは答えず、階段を上がりました。

Dの部屋の前。

ノックしても返事はない。

もう一度。

「D?」

沈黙。

Aがノブを回すと扉は、ゆっくり開きました。

最初に見えたのは、倒れた椅子でした。

その先、床に、Dが倒れていました。

動きません。

Bが息を呑みます。

Cも、扉の前で足を止めました。

AがDへ近づき、身体を確認します。

数秒後。

Aは、ゆっくり振り返りました。

「……死んでる」

誰も言葉を発しませんでした。

昨日まで、この屋敷には4人いました。

今、生きているのは3人。

Bは口元を手で覆ったまま、ゆっくり部屋の中へ視線を動かしました。

そこで、一つのものに気づきます。

壁。

Dが倒れている場所の、ちょうど反対側。

そこには、昨日リビングで見た絵とは別の、小さな額縁が掛けられていました。

森の中に立つ、

  • 黒い動物

  • 細長い鼻先

  • 尖った耳

こちらを見ているようにも、遠くを見ているようにも見えます。

その絵を見た瞬間、Cがほんの少しだけ目を細めました。

しかし、何も言いませんでした。

昨夜、この屋敷にいたのは4人。

  • A

  • B

  • C

  • D

外から誰かが入ってきた形跡は、今のところ見つかっていません。

そして、Dは死んでいる。

だとすれば、残った3人の中に、Dの死について、何かを知っている人物がいるのでしょうか?

ここで、最初の質問を思い出してみてください。

  • A

  • B

  • C

あなたは、どれを選んだでしょうか?

次回【第2部】

次回は、Dが死亡する前、A・B・Cが昨夜何をしていたのか3人それぞれの証言を見ていきます。

そして、昨日まで比較的はっきりしていた3人の「その人らしさ」に、少しずつ変化が現れ始めます。

Aは、ある質問をされた瞬間だけ、身体の反応が変わります。

Bの証言には、不自然に抜け落ちている時間があります。

そして、最も落ち着いて見えるCにも、ひとつだけ奇妙な点が現れます。

ただし、先にひとつだけ伝えておきます。

行動が変化した人物が、犯人とは限りません。

そしてもうひとつ。

今回、一人だけが嘘をついているとも限りません。

では、3人は、昨夜何をしていたのでしょうか?

そして、この4人は、なぜ同じ場所に集められたのでしょうか?

続きます。

出典・参考文献

  • DePaulo, B. M., Lindsay, J. J., Malone, B. E., Muhlenbruck, L., Charlton, K., & Cooper, H. (2003)『Cues to deception』

  • Vrij, A., Hartwig, M., & Granhag, P. A. (2019)『Reading Lies: Nonverbal Communication and Deception』

  • Caso, L., Palena, N., Carlessi, E., & Vrij, A. (2019)『Police accuracy in truth/lie detection when judging baseline interviews』

まとめ

今回は、いつもの心理学解説とは少し違い、皆さん自身にも物語の中へ入ってもらいました。

まだ、犯人を決める必要はないですが、今は、「誰が怪しいか」より、自分が誰を怪しいと思い始めたのかを少しだけ覚えておいてください。

その判断も、この物語の一部です。

そして、今回の物語には、まだ説明していないものがいくつかあります。

三軒の家。

黒い動物の絵。

4人から同じ時間だけ抜け落ちた記憶。

それらに意味があるのか。

それとも、僕たちが意味を見つけようとしているだけなのか。

次回、A・B・C、3人の証言を見ていきます。

最後に

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