シロクマ文芸部『眠れない日に、いつか隣に』
熱帯夜で眠れない夜に、ふと昼間行ったカフェでの会話を思い出した。
いつものカフェ。
メニューとは別にラミネートされた期間限定メニューの塩キャラメルパンケーキに目が留まった。
いつもの厚焼きホットケーキとは違う、ふわふわなパンケーキ生地。
パンケーキの周りを囲むように添えられたホイップクリーム。
たっぷりとかけられた濃厚な塩キャラメルソース。
塩気と甘さが、いつも以上に疲れた身体に沁みそうだったから、さっそくオーダーした。
「すみません!限定パンケーキとアイスカフェオレをひとつください!」
「俺は、塩キャラメルパフェとアイスコーヒーをお願いします」
賢人は注文を取り付けてくれた女性を見やってから、メニューを揃えて、テーブルの端に置いた。
「美冬のことだから、それ頼むと思ったよ。美冬、必ず、期間限定もののメニュー見るもんな」
「その時期しか食べられないものは気になるからね!美味しかったら、台本からちょっと逸れて、『お昼のグッドな日』で話しちゃう!この店のこのメニュー、私好みだったって」
「美冬のそういう姿勢、俺は好きだなぁ。自分が見たものを閉じ込めておかないで、ちゃんと広げて、人に届く隙間を作るところ。アナウンサー向きだよ、美冬。すっかり、深月(みづき)ちゃんと道明(みちあき)も、このカフェ気に入ったらしいしね」
「道明くんったら、ちゃんと私が薦めたメニュー食べてくれたみたいでね。律儀だよね、ほんと。だから、超がつくほど真面目で頑張れちゃう深月も、安心して肩の荷をおろせるのね」
そんな会話をしていると、先にアイスカフェオレと、アイスコーヒーが運ばれてきた。
「ありがとうございます」
運ばれてきたばかりのアイスカフェオレを一口、口に含んだ。
アイスカフェオレのほろ苦さが、少し思考を整理させてくれた。
向かいに座る賢人の、相変わらず人懐っこそうな黒目をじっと見つめた。
「賢人。あのね、この間、一緒に住んでみる?って聞いてくれたの、覚えてるかな」
「忘れるわけないでしょ。俺はまだちゃんと本気だからね」
そう言った賢人の顔からは、いつもの大型犬のような柔らかい雰囲気は消えていた。
「その話、ちゃんと実現できるようにしたくて。夏休み始まったくらいから、アルバイトしたくて。今探してるところなんだ。一応、学園の側のファーストフード店が今のところ、一番の候補なの!」
「そうなの?美冬なら、いいところ見つけられるよ。美冬が迷うようなら、俺も協力するし。何より、ちゃんと美冬が先週言ったことを覚えててくれたのが嬉しい」
相変わらずの笑顔を私に向けて、アルバイトすることもこうして喜んでくれた。
会う機会が減ると寂しい、と言わないのがまた賢人らしい。
人との繋がりを大事にする彼ならそんなふうに言わないことは分かっていたけれど、それでもほんの少し不安だった。
ここがカフェじゃなくて賢人の家だったら。
賢人のほうがその大きな手でわしゃわしゃと黒髪を撫でてくれていたはずだ。
せっかく梳かした髪、ぐしゃぐしゃになっちゃう、と私が口を尖らせれば、機嫌を直すためにキスのひとつやふたつ、してくれるはずだ。
そんな想像は、運ばれてきた塩キャラメルパンケーキと塩キャラメルパフェによって止められた。
「とりあえず、食べちゃおうか」
塩キャラメルパンケーキを、手をつける前にスマホで撮る私を待ってから、賢人も礼儀正しく手を合わせた。
昼間はそんなふうに、カフェでスイーツを堪能したあとも、私が、火曜日お昼に放送している『お昼のグッドな昼間』の話や試験の成績の話、いろいろ話した。
まだアルバイトの応募先すら決まっていなくて、電話連絡すらできていないけれど。
賢人の応援があれば、何とか出来そうだ。
何より、こういう熱帯夜の日にも、彼が隣にいれば眠れるだろうか。
そんな日が当たり前になるように、少しずつ、今からすり合わせをしなきゃな、と思っていると、自然に瞼が重たくなっていた。(了)
シロクマ文芸部、参加させていただきました。
賢人×美冬のお話でした。
雨宿りのお話は
日直→麗眞×椎菜
カフェ→道明×深月
家で過ごす→賢人×美冬
でした。
今回の熱帯夜は
家で過ごす→麗眞×椎菜
日直→道明×深月
カフェ→賢人×美冬
にしてみました。
ぜひ、美冬と賢人の話の雨宿り話も併せてお楽しみください!
