【シロクマ文芸部】『相変わらずのルーティーン
熱帯夜だと言っていたニュースアプリの記事を、今更思い出した。
熱帯夜だろうが、宝月の屋敷にいる限り、俺と椎菜には関係ない。
時刻は夜23時。
「今週も面白かった! 来週もここで観たいな! 麗眞の家のシアタールーム、音響いいんだよね! いい場所貸してくれて、ありがとうね、麗眞。おかげで、お母さんの女優としての新境地、ちゃんと見届けられたよ!」
俺の彼女の椎菜は、まっすぐ俺の瞳を見て微笑んだ。
俺が冷房で冷えるだろうと掛けてやったネイビーのジャケットの襟元を引き寄せながらその台詞を言うな。
椎菜の手を引いてシアタールームを出たところで、見知った声に呼び止められた。
「おや、麗眞坊っちゃまに椎菜さま。ドラマはお楽しみいただけましたか」
「はい! 相関図をちゃんと頭に入れないと難しいミステリーだったんですけど、ちゃんとイッキ見して、最新話もリアタイできました! 相沢さん、お気遣いしてくださって、ありがとうございます」
「とんでもございません。椎菜さまがお楽しみいただけたのでしたら、それが何よりでございます。そろそろ夜も更けて参りました。椎菜さま、来客用の大浴場の準備が整ったようですのでご入浴されてはいかがでしょう」
「そうします! 相沢さん、ありがとうございます」
椎菜は、俺の執事の相沢に明るい声で答えると、俺に目線を向けた。
「麗眞、私、先に支度してお風呂入ってくるね! 部屋戻って着替え取ってくる」
「そうしろよ。シアタールーム、空調24℃だったから冷えたろ。ゆっくり風呂入ってこいよ。身体冷えると風邪ひくぞ。また気管支炎になっても知らねぇかんな」
「麗眞もお風呂入ってくるよね! また後でね!あ! ジャケットありがとう! これのおかげで寒くなかったよ!」
椎菜は、先程まで自分の肩に掛けられていたネイビーのジャケットを畳んで俺に手渡した。
ジャケットを脱いだ後、白いカーディガンから覗くイエローのサマーニット。
くるぶしまである丈の黒いシアースカート。
それが拾う椎菜の身体の曲線は極力、視界に入れないようにした。
「いいから行ってこいよ。日付変わった頃に寝る気かよ」
そっと椎菜の頭を撫でると、お返しとばかりにごく軽く唇を重ねてきた。
「行ってくるね! 麗眞」
椎菜は俺に小さく手を振ると、広い廊下を椎菜用に割り当てられている部屋に向かって進んでいった。
何だあれは。
反則だろ。
可愛すぎだろ、椎菜のやつ。
俺の脳内を熱帯夜にする気かよ。
そんなくだらない冗談が頭に浮かぶくらいには、俺も椎菜という熱に浮かされたらしい。
椎菜が風呂に入っている間に、誕生日プレゼントの候補を3個から1個に絞り込もうと思っていた。
なんだかんだいって、あと1週間しか猶予がない。
タブレットの画面を見ていても、先程の椎菜からのキスが脳裏にチラついて集中できないのは、目に見えている。
俺の部屋にあるシャワールームで水シャワーを浴びないと、この熱は冷めそうにない。
どうせまた、入浴後に椎菜が顔を見せに来る。
彼女を見たら、いの先にまだ濡れている茶髪の髪に目が留まるだろう。
そのまま俺の膝の上に椎菜を座らせて艶のある茶髪にドライヤーの熱を当てることになるに違いない。
そうしているうちに、椎菜が寝落ちして、そのままベッドに寝かせることになるのだ。
生地の薄い前開きのサテンパジャマのショートパンツという格好に、理性の箍が外れないようにするのも、いつものことだ。
学食のハヤシライスを賭けてもいい。
「仕方ないな……。プレゼント選びは、延期するとするか」
小さくため息をついて、俺は自分の部屋に向かった。(了)
シロクマ文芸部『熱帯夜』参加させていただきました。
一応、下記の雨宿りの話の1週間後くらいを書いています。
このふたり、相変わらずです(笑)
