踏切オーディション 毎週ショートショートnote
約400字・ショートショート
朝、いつもの駅前で、私は自分の目を疑った。
あるはずの場所に、踏切がない。
昨日まで黄色と黒のタイガー模様で威張っていた警報機も遮断機も、綺麗に消え失せていた。アスファルトの地面には、まるで抜歯の跡のように、ぽっかりと二つの四角い穴が空いている。
スマホの運行状況を確認すると、「踏切のオーディション受験による運休」と通知がきていた。
毎日同じローカル線を見送るだけの地味な生活に、あいつも退屈したのだろう。
そういえば数日前、遮断機が「シャキーン!」と宝塚のスターばりに大袈裟に上がっていた。警告音だって「カッカ・カカン!」と妙にファンキーな裏打ちのリズムを刻んでいた。あの時から、実技審査の猛特訓は始まっていたのだ。
今頃は、大都会を走る新幹線の高架下か、映画のロケ地の一等地で、自慢の腕をダイナミックに上げ下げしているに違いない。
「まぁ、あいつのルックスなら一発合格か」
彼の合格を祈りながら、線路沿いの道を歩き始めた。
よし。3駅歩こう。
足取りは、いつもより軽やかだった。

