起業家(広義の意味で)の皆さんに問いたい話
ここでいう「起業家」は、会社経営者だけを指しているわけではない。副業でも、フリーランスでも、noteで収益化しようとしている人でもいい。自分で何かを始め、そこから経済的な成果を得ようとしている人を、ここでは広い意味で起業家と呼ぶことにする。
私は小心者で、臆病者で、面倒くさがりで、怠け者である。そんな人間が50代半ばになって、「起業」という、ある意味かなり無謀なことをした。しかも飛び込んだのは福祉・医療の世界。それまで長く仕事をしてきた金融(保険)とは、ほとんど脈絡がない。訪問看護の経験もない。人脈もない。コネもない。文字通りゼロからの「起業」である。
今振り返っても、これは一種のギャンブルだったと思う。勿論、全くの無計画というわけではない。コンサルにも入ってもらい、私の苦手な行政制度のレクチャー、大まかな戦略、申請書類作成のアシストなどを受けながら準備した。分からないところは、分かる人に頼った。それでも周囲の反応は賛否両論だった。
母親からは、「騙されているんじゃないの?」と、私にはいまひとつ意味の分からない質問を投げかけられた。友人からは、「是非挑戦すべき」と背中を押された。そして妻からは、「やってと頼んでないからね」と言われた。
励ましなのか、慰めなのか、諦めなのか、いまだによく分からない。そんな状態で始めた。
成功を夢見ているはずなのに、開業の準備を整えながら、
何故か「撤退する場合のチェックリスト」を作っていた。
一見すると、開業と同時に撤退するかのような矛盾する準備である。
いつまでに利用者が何人いなければ危険なのか。どこまでの赤字なら耐えられるのか。どの時点で「もう少し頑張れば何とかなる」を捨てるのか。
成功するための準備と、失敗したときに致命傷を負わないための準備を同時にしていた。小心者なのである。
起業してからも基本的には同じだった。大きく賭けない。固定費を増やしすぎない。必要になる前から人を抱えすぎない。何かあっても致命傷にならない範囲で、小さく試す。
成功することより、しぶとく続けることを考えていた。
ところが最近、少し困ったことが起きている。
失敗ではない。むしろ逆である。
利用申し込みや問い合わせが、依頼していない経路から入るようになった。
こちらからお願いして仕事をもらうのではなく、向こうから話が来る。
最近では、以前から知っているコンサルタントから、「どんなふうにAIを使っているのか、インタビューさせてほしい」という連絡まで来た。
この方は、雲の上の存在で教える側として見ていた人である。私はただの顧客であり、メルマガの読者だった。それが今度は、私の仕事のやり方を聞きたいという。
勿論、これだけで「成功した」などと言うつもりはない。まだ小さな事業である。ただ、
私が想定していたより、早い。
私はもっと先に岐路が来ると思っていた。利用者がもっと増えて、人を増やすのか、拠点を増やすのか、このまま小さく続けるのか。そんなことを考えるのは、もう少し先だと思っていた。
ところが数字より先に、周囲からの反応が変わり始めた。そして私は、「やった!」というより、「ちょっと待ってくれ」となっている。
ここで、なぜか宝くじの高額当選者の話を思い出した。
突然大金を手にして、仕事や人間関係がおかしくなり、最後にはお金まで失ってしまう人がいるという、あの話である。昔は、「そんなの都市伝説みたいな話じゃないの?」と思っていた。
今は少し違う。
あれは都市伝説ではないのかもしれない。
勿論、私は宝くじに当たったわけではないw
ただ、突然の経済的成功は、必ずしも心地よいものではないという感覚が少し分かった。
私は失敗した場合のことは散々考えた。でも、想定以上にうまくいってしまったらどうするのか。これは考えていなかった。
どうやら人間には、失敗だけでなく成功にも耐性が必要なのかもしれない。
そこで、自分が開業前に作った「撤退する場合のチェックリスト」を思い出した。私は失敗した場合のチェックリストは作った。しかし、成功した場合のチェックリストは作っていなかった。
想定より早く利用者が増えたらどうするのか。向こうから仕事の話が来るようになったらどうするのか。人を増やすのか。事業を大きくするのか。断るのか。そもそも、自分はどこまでを望んでいるのか。
何も決めていなかった。
私は失敗することばかり心配して、成功した場合のリスク管理を忘れていたらしい。
最近、AIの業務活用について考えていて、何度も使った言葉がある。
「それ、要る?」
便利だから導入する。自動化できるから自動化する。最新だから使う。
そうやって仕組みを増やしていくと、便利になるはずだったものを管理する仕事が増えてしまう。だから、「できるか?」より、「それ、本当に要る?」と考えるようになった。
どうやら同じ問いを、自分にやって来る「機会」に対しても向ける必要がありそうだ。
仕事が来たから受ける。評価されたから広げる。売上が増えるから人を増やす。良い話だから乗る。
それもまた、「それ、要る?」なのだと思う。
そんな起業家の皆さんに問いたい。
失敗した場合のことは考えていますか?おそらく、考えていると思う。
では、
想定より早く、うまくいってしまった場合のことは考えていますか?
私は考えていなかった。
まだ成功したわけでもない。宝くじにも当たっていない。
ただ、もっと先にあると思っていた岐路が、突然目の前に現れた。
今のところ私は、その前で少しテンパっている。
